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【クィーン・オブ・バイオレンス 〜「悲劇の聖女」の正体は元いじめ主犯格。共感で狂った世界で復讐者と地獄を争う〜】  作者: 風風風


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プロローグ「聖女のアルゴリズム」

都心の外資系ホテル、

最上階のスイートルーム。


色とりどりの花束と

「出版記念パーティー」

の祝花が溢れる室内で、

カメラのフラッシュが

激しく焚かれていた。


「——私は、あの地獄のような教室で、

 自分の名前を呼ばれるのが怖かった。」


報道陣とファンで埋め尽くされた

会場の真ん中で、

彼女——神田(かんだ)葵( あおい)は、

消え入りそうな声で語りかけた。


華奢(きゃしゃ)な体にまとった白いワンピース、

少し伏せられた大きな瞳、

そして儚(はかな)げに震える指先。


「靴を隠され、机に落書きをされ、

 存在すら消された中学校の3年間。

 でも……だからこそ私は、

 いま画面の向こうで

 傷ついているあなたの痛みが、

 誰よりもわかるんです。」


会場のあちこちからすすり泣きが漏れた。


SNSでは

「#神田葵」「#聖女の言葉」が

トレンドの1位と2位を独占し、

配信のコメント欄は

「葵ちゃんに出会えてよかった」

「生きていてくれてありがとう」

という涙の絵文字で埋め尽くされている。


葵はそっと目元を拭い、

完璧な角度で頭を下げた。


涙で潤(うる)んだその瞳は、

集まったカメラのレンズを

的確に捉(とら)えている。


(……よっしゃ、完璧。)


下を向いた顔の影で、

葵は心の中で小さく舌を出した。


「傷ついた少女」を

演じるための演技指導、呼吸の乱し方、

涙を流すタイミング。


すべて計算通り。


今日の配信だけで、

新刊の増刷と

ファンクラブの新規会員数が

数千人単位で跳ね上がることが確定した。


会見が終わり、控え室に戻ると、

葵は即座にヒールを脱ぎ捨てて

革張りのソファに深く深く身を沈めた。


マネージャーが差し出した

高級炭酸水を一口飲み、

スマホの画面を高速でフリックする。


「葵さん、凄まじい反響です!

『元・重度不登校の被害者だからこそ

 書ける本』って、

 大手メディアも軒並み大絶賛ですよ」


はしゃぐマネージャーを、葵は

感情の籠(こ)もっていない冷ややかな目で

見上げた。


「ねえ、

 なんでみんな

『被害者』の言うことなら、

 ノータイムで信じちゃうと思う?」


「え?

 それは……葵さんの体験がリアルで、

 みんなの心に刺さるからでは……」


「違うよ」


葵はくすりと笑った。


「みんな、罪悪感を消したいの。

 かつて学校で誰かを無視したこと、

 ネットで誰かを叩いたこと、

 目の前のいじめを

 見て見ぬふりしたこと。

 そういう自分の中の小さな汚さを、

『可哀想な私』に共感して

 涙を流すことで、

 綺麗さっぱり

 洗顔した気になりたいのよ。

 私はね、

 彼女たちに

 『いい人になれた気分』を

 売ってあげてるの」


葵の脳裏に浮かんできたのは、

十五年前の、

あの湿っぽい中学校の教室の光景だった。


——靴を隠したのは、葵だ。


——教科書を破り、デマを流して

一人の少女を不登校に追い込み、

クラスの頂点で

クスクスと笑っていたのは、

他の誰でもない、葵自身だった。


どうすれば人間が一番傷つくか。


どうやって追い詰めれば心が折れるか。


加害者として

「人の心の弱点」を

知り尽くしているからこそ、

葵には手に取るようにわかるのだ。


世間がどういう物語(ストーリー)を買い、

どんな嘘に泣きたがっているのかが。


葵はスマホの画面をタップし、

自分がプロデュースしている

「悲劇のインフルエンサー」たちの

売上データをチェックした。


「いじめられた過去なんて、

 ただの集客コンテンツ。

 傷ついた経験?

 そんなもの、ただの

 強力なマーケティングツールでしょ」


その時、葵の個人のスマホが短く震えた。


鍵付きの裏アカウント宛に届いた、

1通のダイレクトメッセージ。


通知画面に表示された

差出人の名前を見た瞬間、

葵の指がわずかにピタリと止まった。


『久しぶりだね、葵ちゃん。

 今日の会見も素敵だったよ。

 ところで……

 私が屋上から飛び降りた日のこと、

 そろそろ世間に話してもいい?』


部屋のエアコンが、

低い音を立てて冷気を吐き出した。


葵はメッセージを睨(にら)みつけたまま、

ゆっくりと口元を吊(つ)り上げた。


「……面白いじゃない。

 本物の『弱者』が、

 私に勝てると思ってるんだ。」


悲劇の聖女の仮面を被った、

かつてのモンスター。


嘘と共感で塗り固めた彼女のビジネスが、

いま静かに動き出す。

この後、本日 13:10 に

第1話を投稿します。

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