第56話
「なんだと!? ええい、この若造が! 下手に出ておれば調子に乗りおって! 『家の存続はかなわぬものと思え』だと? 王に進言して我がウォード家を取り潰すつもりか? ハッ! やれるものならやってみろ! 惰弱な王と老いぼれた大公など恐るるにたらんわ! ワシには右大臣のギブラ様がついておるからな!」
「ラスール。その言葉、反逆の意思ありと受け取ったぞ」
「おうよ! こうなったら行くところまで行ってやるわ! 小僧、貴様も覚悟しろ! 大公の旗さえ持ち出せば、ワシらが素直に平伏すると思ったのだろう? とんだ思い違いよ! ふはははは! 100を超える我らウォード軍を、たったの5騎でどうする!? どうしようもあるまい! これが実戦だ! 青二才が!」
そしてラスールは、大きな体からは想像もできない身軽さで再び馬に跨り、腕を振り上げて100名の兵士に一斉攻撃の号令をかけ……ようとしたが、できなかった。その太い腕が、どこかから放たれた銃弾で撃ち抜かれたからである。
「うぐぅっ……!」
「ち、父上! 大丈夫ですか!? ……うわぁっ!?」
今度は、慌てて駆け寄ろうとするエリックの足元に銃弾が飛んできた。『はずした』という感じではない。それは『そこから一歩も動くな』という警告のようだった。
ブライスがため息と共に言う。
「ラスール、これまでの調査でお前の気性は良く知っている。追い詰められれば服従より戦いを選ぶのは分かり切っていた。そんなケダモノの口元に、たったの5騎で入り込むわけがないだろう。周囲に多数の狙撃兵を配置している。皆、最新式の長距離射程銃を装備しており、その銃弾は決してはずれることなどない」
「うぅっ! ぐっ! ぐううぅぅぅぅ……っ!」
ラスールは再び、唸るだけの存在になってしまった。
「終わりだよ、ラスール。ついでに言うなら、お前が頼りにしている右大臣ギブラもね。奴は今頃、父上の手で、反逆者として捕らえられているはずだ。ギブラとお前には、大公の長男――つまり僕の兄上を毒殺した疑いがかかっている。これから厳しい取り調べがあるぞ。覚悟しておくといい」
「うぐううぅぅぅぅぅ……! ちくしょおぉぉぉぉぉ……っ!」
そして、少し遅れて到着した多数の騎兵隊の手でラスールは連行されていった。ウォード軍は数こそ多いものの、ラスールが連行された今、ハワード・オルスタイン大公とブライス・オルスタイン公爵に逆らう気などあるはずもなく、借りてきた猫よりも大人しい。皆、騎兵隊の指示に従って素直に武装解除し捕縛、沙汰を待つことになった。
混乱が少しずつ収まってきたところで、私はやっと、馬から降りたブライスと話ができた。安堵、喜び、感謝、愛情……いろんな想いが胸から溢れて、どういう言葉を発するべきか迷ったが、私はとりあえず片膝を突き、恭しく礼をした。




