第52話
「きゃははははっ。……良かったわねぇ、クリスタ。お小遣いが貰えるわよ。あら、なぁに、その顔? 喜びなさいよ。汚らしい、みじめな乞食みたいにさ! きゃはははははははっ!」
なんて……
なんて人たちなの……
この人たちは、道理を破ることや悪事を働くことに、何の抵抗もない。むしろ、楽しんでいるようにすら見える。降参してすべてが丸く収まると考えていたわけではないが、それでもまさか、国王陛下や大公様の存在すら軽く見ている人たちだとは思いもしなかった。
狂ったように笑っていたラスールとキャロルが静かになると、今度はエリックが語り始める。もう何度も見た、あの粘着質の嫌な笑顔で。
「クリスタ、後悔しているか? すべてはお前が、分不相応に自己主張し、俺からの愛を拒絶したせいだ。どうだ。今になってやっと、自分の罪の重さがわかったんじゃないのか?」
私はもう、この男のいやらしい言葉など聞いてはいなかった。……ハンスとフォーリー領の皆は無事に逃げられたかしら。ウォード兵が進軍を止めてから、もう10分以上経っているし、きっと大丈夫よね。
瞳すら合わせようとしない私の態度が気に入らなかったのか、エリックの語気は一気に荒くなる。
「おいっ! こっちを見ろ! ちっ、この期に及んでも生意気な女だ。……よく聞け、クリスタ。フォーリーの連中は引っ込んでしまったようだが、ウォード軍が本気になれば、どこに隠れても見つけ出して殺すことができるんだぞ。もしかしてお前は、奴らが逃げるための時間稼ぎに来たのかもしれないが、所詮は一時しのぎだ」
「なんですって……。エリック、あなた、どこまで下劣なの……!」
「俺は善人だよ。その善良な俺にここまで言わせるお前が悪いんだ。そうだ、全てお前が悪いんだ。お前以外は、皆俺の言うことを聞く。お前だって、昔は俺を愛してくれたじゃないか。なのになぜ、今はこれほどに反発する? お前が大人しく俺の言うことに頷いていれば、誰も苦しまずに済んだんだ。それが分からないのか?」
「あなた、どうかしてるわ……」
「黙れ! 俺がどうかしているというのなら、それもお前のせいだ! ……しかし、俺は優しいんだ。お前も知っているだろう? だから、フォーリーの人間とお前に、最後のチャンスをやる。この場で、俺に向かって土下座しろ。泣きながら額を地面に擦り付け『私が間違っていました』と許しを乞え。そうすれば全員助けてやる」
「エリック、あなた……」
もう、軽蔑する気すら起こらなかった。逆に、こんな卑劣で矮小なことを口にしてしまうエリックが、かわいそうにすら思えてくる。私は、深い憐れみを込めた目で彼を見た。




