第31話
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それから私たちは、いつものように大きな岩に隣り合って座り、いつものように、とりとめのないことを話した。完全に恋仲となったせいか、その『とりとめのないこと』を話すのが、いつも以上に楽しく、心が満たされるようだった。
そして、これもいつも通りだが、幸せな時間は流れるように過ぎ行くもの。ブライスは残念そうに太陽の傾きを一瞥し、「そろそろ時間だね」と呟いた。
仕方のないことではあるが、寂しかった。彼と別れれば夢のような時間は終わり、再びエリックとウォード家による嫌がらせという現実に向き合わなければならなくなる。しかし、私が悩み悶える姿は、ほんの少しでもブライスには見せたくなかった。彼もきっと大変な立場で、日々悩むことがたくさんあるだろうから……
しかしブライスは、そんな私の内心を読んだかのように、真剣な表情で言った。
「そういえばクリスタ。さっき『最近思い悩むことばかり』と言っていたね。どんな悩みなんだい? 話してくれれば、何か力になれるかも……」
しまった。私としたことが、先程喜びの熱に浮かされ、そんなことを口走っていたのか。……本音を言えば、エリックとウォード家から受けている仕打ちを洗いざらい吐き出してしまいたい。
だが、今まさに帰らなければならないブライスに長話をするわけにはいかないし、他国の人質(と思われる)である彼に、この国の地方領主同士のトラブルを話しても、困らせるだけだろう。
私は彼に心配をさせまいと、懸命に笑顔を作って言った。
「大丈夫です。ちょっと厩舎の仕事が上手くいってなくて、それで悩んでただけですから」
「仕事が上手くいってない? あれほど見事な調練をする厩舎が?」
「あ、あはは……まあ、そういうこともあるんです……」
ブライスは、黙った。鋭い彼は、今ので私が気持ちを隠していることを見抜いたのだろう。……またしても『しまった』である。余計なことを言わずに『大した悩みじゃない』とだけ言っておけばよかった。ブライスは数秒間沈黙したまま、真剣な瞳でしばらく私を見て、再び口を開く。
「クリスタ。きみが話したくないのなら、今は無理に聞かないよ。ナイーブな悩み事もあるし、どんなことでも話せば楽になるというほど、悩みというのは単純なものではないからね」
「…………」
「でも、きみが本当に困ったときは、僕に相談してほしい。必ず力になるよ。……そうだ、これを渡しておこう」
ブライスはそう言って、懐から小さな名刺のようなものを取り出した。そこには特に名前は記載されておらず、恐らくはどこかの仲介所と思しき住所だけが記載されていた。




