第25話
続いてブライスは、久方ぶりの対面となるノームに微笑みかけ、そのたてがみを愛おしげに撫でた。
「一週間ぶりだね、ノーム。きみが僕のことを、草原に置きざりにした薄情な主人だと思っていないといいんだけど」
「ノームなら大丈夫です。この子は特別に賢い馬ですよ。何か理由があって、自分のことをブライスさんが私に預けたとちゃんと理解していますから、うちの馬屋で大きく嘶いたり暴れたりして困らせることは一度もありませんでした」
私の言葉に、ブライスは静かに首を左右に振る。
「ノームは確かに賢いけど、それだけじゃないよ。きっと、きみの誠実さと優しさを感じ取ったから、安心していたんだと思うな。馬は人を見るからね」
「そんな……私、そこまで誠実じゃありません……」
「そうかな? きみはさっき、僕が三時間以上前に約束の場所に来たことを言ったけど、きみだって三時間以上前にここに来たじゃないか。僕を待たせまいとしたんだろう? 約束の相手を待たせないようにする人は、誠実な人だと僕は思うな」
「ブライスさん……」
最近、本当に気が滅入ることばかりだったから、彼の優しい言葉が驚くほど心に染みる。うっかりすると涙目になってしまうので、私はとりあえず、現在抱えている悩みはすべて忘れ去り、彼とのおしゃべりに興じた。それは本当に久しぶりに、心の暗雲が消えていくような、穏やかで幸福な時間だった。
そして、幸福な時間ほど流れるように過ぎ去るもの。あっという間に正午を回り、私が持参したお弁当を二人で食べ、それからすぐに、ブライスが帰らなければならない時間になった。
「さて、と。これからノームに乗ってこの草原を引き返すわけだけど、ゆっくり歩かせれば穴に足を取られずに済むかな? クリスタ。比較的穴のない道筋とかがあるのなら、できれば教えてほしいんだけど……」
「あ、それなら大丈夫です。余計なお世話かとも思ったんですけど、この一週間のうちに、この穴だらけの草原を走れるようにノームを調練しておいたので」
その言葉に、ブライスは端正な瞳を丸くした。
「調練しておいたって……たった一週間で?」
「正確には、六日と三時間です。ノームはものすごく覚えが早くて、私も驚きました。どんなに優秀な馬でも、普通なら三週間から一ヶ月はかかりますから」
「確かにノームは優れた馬だけど、それでもこの短期間で悪路に適応するなんて……。いや、きみの言葉を疑うわけじゃないけど、それはさすがに……」
無理もないだろう。生まれたばかりの赤ちゃんが、たったの一週間で立って言葉を話し始めたと言っても信じる者はいない。ノームのようにすらりとした馬が、この短期間で悪路に適応するというのはそれだけのことなのだ。
私は微笑して、言う。
「では、論より証拠です。どうぞ、ノームに乗って、この辺りを走り回ってみてください」
「あ、ああ。じゃあ、やってみるよ」




