第24話
私はノームに対し、やや寂しげな笑みを浮かべてつぶやく。
「私の気持ちが暗いからって、空まで暗くなったら、世界中の人たちに迷惑だもんね」
ノームはまるで相槌を打つように、そして元気を出せというように、「ブルルッ」と頷いてくれた。賢く、優しい馬だ。それに、見れば見るほど美しい毛並み。これほどの名馬、地の果てまで探しても、そうそういるものではないだろう。
それにしても、少し早く来すぎてしまったかな。まだ朝の9時だ。以前ブライスと出会ったときは正午を回っていたので、今日もそれくらいの時間に彼が来るとしたら、まだ三時間以上もある。
しかし、ただ待つとしても、お屋敷の中でうつうつと過ごすよりは、晴れた空の下、美しい馬と共に、美しい草原を眺めていた方が気が晴れるに違いない。
そんなことを考えながら歩いていた私は、驚いた。見通しの良い草原――あのブライスと出会った場所に、栗毛の馬を引き連れ、彼がもう立っていたからだ。
私は慌てて駆け寄り、思った通りのことを口に出す。
「ブライスさん。まさか、こんなに早く待っているなんて……」
ブライスは昇っていく太陽のごとく眩しい微笑みを浮かべ、言う。
「『約束した相手を待たせるな』というのが父の教えでね。待ち合わせの時間には、いつも三十分前には到着するようにしているんだ」
「三十分どころか、まだ三時間以上もありますよ」
「少し急ぎすぎたかな?」
そのやりとりがおかしくて、私はクスリと微笑した。ささやかな笑みではあるが、久々に嫌な気持ちが心から抜けていくような、安らかな笑いだった。
ブライスは、一週間前に私が貸し出した栗毛の馬を撫でながら、しみじみと言う。
「この子は素晴らしい馬だったよ。剛健、俊足、従順。人が騎乗する馬に対して求められるすべての要素が高次元でまとまっている。僕の家の厩務員も感心していた。『これほど優れた調練をする厩舎ならば、一度足を運んでみたい』とまで言っていたよ」
嬉しい言葉だった。ウォード家の策略で名の落ちたフォーリー家の調練技術を認めてくれる人がいるのは、何よりの支えである。同時に、その誇らしき調練技術が、くだらない嫌がらせで侮辱されたことを意識してしまい、心の中に苦いものが広がっていく。
そんな私の表情を見て、ブライスは首を傾げた。
「どうしたの? もしかして、何か失礼なことを言ってしまったかな」
私は慌てて、笑顔を作る。
「い、いえ、そんな。うちの馬を凄く褒めてもらえて、それで感動しちゃって。私、感動すると難しい顔になっちゃうんです」
「そう? なら良かった。こちらに他意はなくても、無遠慮、無神経な発言が人を傷つけることはよくある。僕も常日頃から気を付けているつもりだけど、言葉は難しいからね。一生の勉強だよ」
彼が無遠慮に人を傷つけることなどまずないだろう。無神経な人は、自分の言葉に問題があるなんて夢にも思っていない鈍感な人ばかりだから。




