第2話
なるほど。人の前でため息を漏らすのは、確かに感じが良くないかもしれない。私だって、普段なら絶対にこんなことはしない。どうやら私は、自分で思っているよりこの状況を不愉快に感じているらしい。
いつのまにか、『不快そうな眼差し』を通り越し、もはや私を睨むように見ているキャロルに対し、こちらもやや冷ややかな視線を返して言う。
「いえ、別に」
その淡白な態度が余計に癇に障ったのか、キャロルは火種を入れられた油壷のように燃え上がり、一気に言葉をまくしたてる。
「別にって何よ。せっかく良い雰囲気だったのにこれ見よがしにため息なんてついて、それで『別に』ってことないでしょ。何か文句があるんじゃないの? え? そうでしょ? ハッキリ言いなさいよ」
婚約者同士のデートに余計な女がくっついて来ている状況が『良い雰囲気』とは。この子の自己中心主義にはある意味感心する。これほど自分勝手に生きられたら、日々のストレスに悩み悶えることなく、安楽な人生を過ごせるのかもしれない(たとえそうでも、こんな恥知らずな子にはなりたくないけど)。
それにしても、何という口の利き方だろう。キャロルは私に対し、初対面の時だけは敬語だったが、今ではすっかり気安い友達を相手にするような――いや、それともかなり違う。まるで使用人を叱りつけるような物言いだ。
……正直、もうそろそろ限界である。これまでもキャロルの振る舞いに閉口することはたびたびあったが、エリックと結婚すれば彼女は正式に私の義妹となるのだから、なるべく良い関係を築きたいと思って我慢してきた。
しかしよく考えてみれば、どこかで一回、きつく言い聞かせなければ、結婚後もこのやりたい放題の義妹と親族として付き合っていかなければならないのだ。彼女の言動を強く注意する絶好の機会は、まさに今だろう。エリックも同席しているし、彼も私に同調してキャロルを叱ってくれるに違いない。
私は覚悟を決め、一度息を深く吸い込み、それをゆっくりと吐いてから口を開いた。
「じゃあハッキリ言うけどね。キャロル、最近のあなたの態度はいくらなんでも勝手が過ぎるわ(正直に言えば最初からちょっとアレだったけど……)。エリックと結婚すればあなたも私の親族になるわけだけど、親しい仲でも礼儀や気遣いは必要なのよ? これから良い関係を築いていくために、少し自重してほし……」
まだ言葉の途中だが、それを遮るようにキャロルは笑いだした。それは完全にこちらを見下している、嫌な笑いだった。
「あはははっ! 『親しい仲でも礼儀や気遣いは必要』って、面倒くさい婆さんみたいなこと言うのね。あなた、本当は見た目よりずっと年寄りなんじゃないの? くすくすくす。もしかして、年齢をごまかしてお兄様を騙そうとしてるのかしら? あはっ! タチ悪いんだぁ」




