第1話
「なかなか良い店じゃないか。キャロル、お前もそう思うだろう?」
私の婚約者であるエリックが、紅茶を一口飲んだ後、上機嫌にそう言った。
ここは王都でも一二を争う人気のレストラン。まだ昼食には少しだけ早い時間で、座席はあまり埋まっていない。静かで過ごしやすく、愛し合う男女がゆっくりと会話をするのには絶好の場所と言えるだろう。
しかし私の心は穏やかではなかった。エリックの言葉に相槌を打つこともなく、小さくため息だけを漏らす。……だって、エリックが親しげに声をかけた『キャロル』は、私ではないのだから。
黙ったままの私の代わりに、キャロルがはしゃぎながら口を開く。
「本当ね、お兄様。でもこのお店、お昼になるともの凄く混むらしいから、お茶を済ませたら出ましょう。私、混むお店って嫌いなの」
「そうだったな。いくら良い店でも、可愛いお前が嫌なら何の意味もない、この一杯を飲んだらすぐ出るとしよう」
二人のやりとりを聞いて、私は思わず「は?」という呆けた声を出してしまった。エリックが一度この店で食事をしてみたいと言うから入ったのに、妹の言葉一つですべてがひっくり返ってしまうのね。……そもそも、今日は私とエリック、二人きりのデートだったはず。それなのに何故、彼の妹がくっついて来たのか。
いや、『何故』もなにもないか。
キャロルがついて来るのは、今に始まったことじゃないものね。
そう。私とエリックが二人で会う際に、どういうわけかしょっちゅうキャロルがやって来るのだ。昔の私は、それを別段おかしなことだとは思わなかった。今にして考えればおおらかにもほどがあると思うが、キャロルのことを『兄の婚約者と積極的に仲良くしようとしている可愛い義妹』だと思っていたのである。
その『可愛い義妹』が、ちょっとおかしいと気づき始めたのは、エリックとのデートにキャロルがついてくる頻度がどんどん上がっていったからだ。最初は『たまについて来る』という感じだったのが、最近では私とエリックがどこかへ行く際は、実に70パーセント以上の確率でキャロルが一緒なのだ。
キャロルがどんなに甘えん坊だったとしても、これは明らかに常識に欠ける行動だ。しかも、大人しくついてくるだけなら可愛いものなのだが、キャロルは何でも自分が一番に優先してもらえないとヒステリーを起こす困った性格で、私はいつもお姫様を相手にするように気を使わなければならず、かなりのストレスだった。
なので先日、エリックにそれとなく『もう私たちのデートについてこないよう、キャロルに言い聞かせてもらえないかしら』と頼んだが、どうやらまったく効果はなかったようで、今日も元気にやって来て、ワガママぶりを発揮しているというわけだ。
「はぁ……」
なんでこんなことになっているのだろう。
その悩みを吐き出すように、重たいため息を漏らす私。
するとそれが癇に障ったのか、キャロルが不快そうな眼差しを私に向け、口を開いた。
「なに? 今のため息。なんか、すっごく感じ悪いんだけど」




