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第12話 待ちぼうけ

 城ヶ崎さんとの買い物を終えて帰宅すると、夏凛が玄関で体操座りをしたまま寝入っていた。


「ああ、そっか……19時までに帰るって約束してたよな」


 夏凛の前髪を人差し指で掻き分け、その表情を観察する。とても実の妹とは思えない、綺麗な顔立ち……そのまま頬、顎のライン、そして鎖骨までをなぞる。


 そこまで来てようやく我に返る。あまりに芸術的だったために夢中になってしまっていた。そして視線を上に向けた時、夏凛の視線と俺の視線が交差した。


「兄さん」


「あ、ごめん。起きたか?」


 夏凛は徐々に涙を瞳に貯めて、それが決壊すると同時に飛び付いてきた。


「うわっ!」


「また……あの生活に戻ったと思いました。うぅ、折角兄妹になれたのに、飽きられたのかと……ぐすん、思ったんですぅ……うぅ」


 一度暖かさを知った兄妹は元に戻りたくはなかった。あの冷たい誰とも関わらない世界、孤独に慣れてはいても、人間である以上は絶対に堪えられない。


 黒斗は城ヶ崎との交流したり、なるべく遅く帰るために寄り道をしたり、夏凛は助っ人部と言われるほど人助けをして帰るのを遅くしていた。

 それは一種の防衛反応であり、決して本人達が平気だと言う意味ではなかった。


「ごめんな、夏凛」


 さめざめと泣く夏凛を抱き締め、黒斗は艶やかな黒髪を撫でる。その姿は誰が見ても兄が妹を慰めると言う光景であり、正しい兄妹の姿であった。


 ☆☆☆


「見苦しいところをお見せしてすみませんでした……」


「あ、いや!今回のは俺が全面的に悪いからさ、顔上げてよ。普段起きないことが起きてさ、それで多分頭から抜けてたんだと思う」


「起きないこと?」


「いつもなら教室で軽く喋ってハイサヨナラっで終わりなのに、今日は放課後に遊びに行こうって城ヶ崎さんが誘ってきたんだ」


 城ヶ崎さんの名前を出した途端に部屋の温度が少しだけ下がった気がした。


「確かに、あの時に遊びに行くと兄さんから聞きました。だけどまさか城ヶ崎先輩だとは思いませんでした!」


 え?何この反応、まさか夏凛と城ヶ崎さんは仲が悪い?どこにも険悪になる要素なかったよな?


「わ、悪い!てか夏凛って、城ヶ崎さんのこと嫌いだったり、する?」


「べ、別にそう言うわけじゃありません!!ただ……な、なんかモヤモヤするんですぅ!」


 夏凛のこの反応、兄を取られるかもしれないって言う妹の嫉妬か。──なんかちょっと照れるな。


「ニヤニヤしないで下さいよ!」


「あ──ご飯冷めちゃうからもう食べようぜ」


「むぅ~」


 俺のせいで一度冷めた料理は先ほど夏凛が暖め直してくれていた。それが再び冷めるのは悪いので早速2人で夕食を取った。


 ☆☆☆


 夕食後、部屋に戻ろうとすると夏凛に呼び止められた。


「あ、あの!待ってっ!」


「え?」


「今日こんなことが起きたのも、きっと"報連相"がなってなかったからだと思うのです」


「ん?遅くなったのは悪かったけど、下駄箱で連絡も報告もしただろ?」


 そう、報連相はきちんとしていた。だけど、俺がそのあと時間管理をミスしたからこう言うことが起きたのだ。夏凛は一体何が言いたいのだろうか?


「だ、だからぁ!──スマホの番号教えて下さいっ!」


「あ、そうだよな。よく考えたら知らなかったな。えーっと、赤外線赤外線っと。よし、これで遅れても連絡入れれるな。気付かなくて悪かったな」


「ううん、こちらこそありがとうございます」


 夏凛はスマホを胸に抱いて感謝を口にする。その光景は、アニメで誕生日プレゼントをもらった娘のシーンを観てるような気分だ。──ただの番号なのに。


「じゃ、私は部屋に戻りますね。兄さん、おやすみなさい!」


「ああ、おやすみ」


 2階へと駆け上がっていく夏凛、部屋のドアが閉まる音がしたあと、1階まで聞こえるほどドタバタと音が鳴り響いていた。


 黒斗は首をかしげて「変な夏凛」と感想を口にして食器を洗い始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
今時のスマホに赤外線通信機能は付いてないですよ。 番号を交換するよりはLINEのようなメッセージアプリのIDをQRコードで交換するのが普通では。
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