ポール弟と第2王子
お読みいただきありがとうございます!
学園に入学して1ヵ月ほどたった頃。履修する選択科目がやっと決定した頃です。
私は結局、経営学のみ取りました。学園の授業と領地の勉強の両方って結構忙しいので……さらに婚約者の選定もしないと。
さて、そんななか困ったイベントが発生中です。
目の前には男性用の学園の制服。腕の部分がアップで見えます。まだ入学してそんなに日が経っていないので、新品のような輝きを保っています。
「ねぇ、聞いてる?」
「腕が邪魔ですね」
「いや、君が俺の話を聞いてくれたらちゃんとどけるんだけど」
これっていわゆる壁ドンに近いですね。新手のいじめでしょうか?
壁ドンのようなことをしながら、そんなことをのたまう男子生徒が1人。名前はまだない……じゃなくて忘れました。同じクラスじゃないので。
あ、そういえばこの人、あのプレイボーイの伯爵令息ポールの弟だったような気がします。とりあえずポール弟ということにしましょう。
「2カ月後の学園パーティーに一緒に行こうよ」
「別に一緒に行かなくても全学年参加なので会場で運が良ければ会うのではないでしょうか?」
「君のエスコートがまだ決まっていないって聞いたからさ」
「学園パーティーはエスコート必須ではないです。婚約者なら話は別ですが」
「じゃあついでに俺と婚約しようか」
何ですかね、この軽薄な話の通じない方は。ティアと図書館で勉強していて手にインクが付いてしまったので手を洗いに立って廊下を歩いていたら、これです。
学園パーティーというのは2カ月後に開かれる上級生と新入生の交流会です。制服での参加ですし、気軽な夜会のような感じになると聞いていますが、婚約者が決まっていない者にとっては出会いの場、いわゆる婚活パーティーのようにもなっているようです。
ポール弟は私の進路をふさぎつつにっこり笑っています。
こんなやつと無駄な話をするよりティアとお勉強をしたいのに。
「お断りします。失礼します」
「つれないなぁ。ねぇタンドール伯爵家の嫡男と君が婚約するかもって流れてるウワサはほんとなの?」
タンドール伯爵家の嫡男というのは、ベイルお兄様のことを指します。
「あなたに何かご関係がおありですの? ないですわね」
ウワサについては初耳ですが、淑女の仮面を張り付けつつ対応します。
ここで驚く顔など見せたら相手の思うつぼですし、ベイルお兄様にも迷惑が掛かってしまいます。
しかし、根も葉もないウワサが流れたものです。でも私の耳には入っていないので、このポール弟の創作話かもしれません。
「ふーん」
ポール弟はニヤニヤしながら私を見下ろしてきます。確かに顔はちょっといいかもしれませんが、軽薄な雰囲気が漏れているので、私とは相容れない人種です。早く手をどけて視界から消えてほしい。
「イーデン。また女性を口説いているのか?」
「……邪魔が入ったか……」
ポール弟の名前はイーデンだったのかと感心しながら、軽やかな声に振り向くと、もっとめんどくさい御仁が立っておられました。
「もしかしてカスクート家の…………?」
「はい、アルトリリー・カスクートと申します。第2王子殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
珍しく取り巻きを連れずに現れたのは第2王子でありました。第1王子と違って、よく言えば親しみやすい、悪く言えばへらへらキラキラした笑顔を浮かべておられます。
「へぇ、君がねぇ」
第2王子は値踏みするようにジロジロと見てきます。ちょっと嫌な気分になりますね。しかも偉そうな態度です。
「では、人を待たせておりますので失礼いたします」
「いや、ちょっと待て」
そそくさと退散しようとしたら第2王子に留められました。なにこれめんどくさい。
第2王子と関わりたくないのはこの間起こったちょっとした騒動のせいです。
第2王子は成績が下の方です。はっきり言いますと下から2番目のクラス。選択科目は上から2クラスの生徒たちしか受講できません。第1王子は剣術の授業を選択しており、他の令息達もお近づきになろうと受講希望が殺到したため、受講するための抽選会まで行われたくらいです。
それにも関わらず、こいつは剣術の選択授業の初回に現れ、普通に受講しようとしたそうなのです。エイドリアンとベイルお兄様から聞きました。
第1王子が注意してくれたのに聞かず、周囲も相手が王族なので中々対処できない中、学園長が出て行ってなんとか解決したようです。王族だから成績悪くても選択授業が受けれるなんてダメですよね。もちろんそんな例外は認められませんでした。
第2王子は面の皮が厚いのか、王族だから受講出来て当たり前と思っていたのか……謎ですが、とりあえずあのイタイ騒動以来(王子に面と向かってあなたは成績が悪いから受けれませんよとは生徒は中々言えない)、賢明な令息令嬢達は第2王子から距離を取って様子見しています。
しかし、サロンで見た取り巻き達は相変わらず取り巻きのようです。
「君のような美しい人がなぜ私の婚約者候補に名前がなかったのだろうか。家柄も申し分ないのに」
第2王子が不穏なことを言っています。そりゃあお父様が陛下を脅したに決まっていますよ。
「私には荷が重いですわ。では、まだ課題が終わっていませんので失礼しますわ」
「そうか、なら手伝おう」
あんたの学力じゃ無理だろと言いたいですが、そんな不敬なことは言えませんね、おほほ。
「あら、アルトリリー様。こちらにいらっしゃいましたのね。探しましたわ。早く課題にとりかかりませんと下校時間がきてしまいますわ」
ティアではない、でも聞いたことのある女性の声。救世主が現れた。
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