アルトリリーVS第1王子
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さてさて学園に入学する日が近づいてまいりました。
制服というものがあるので、それが屋敷に届いて試着しているところです。
ネイビーですが地味すぎず、動きやすいのがいいですね! これなら木登りも楽勝。
「お嬢様、選択科目は何を取られるか目星はつきましたか?」
エイミーが制服に合う髪型をああでもないこうでもないと悩みながら、思い出したように聞いてきます。
「最初の1ヵ月は見学ができるようなの。だから気になるところを見学してから決めるわ」
「それがようございますね」
エイミーは髪型が決まったらしくうんうんと嬉し気だ。
その髪型はアベルによって瞬く間に却下されたが。
イザベラ様から懲りずに定期的に届くお茶会の招待状は全て欠席でお返事をし、たまに「エイドリアン様のことを教えてほしい」と来る手紙には「赤毛です」と分かり切ったことを返している。
エイドリアンに会えないから彼のことを教えて欲しいという手紙はそれから何度も来て面倒なので、「木登りは順調ですか?」とだけ最近は返すようにしている。だって私から見たエイドリアンとイザベラ様から見たエイドリアンは違いますから。
手紙は全く会話になっていないのに、イザベラ様は中々に諦めてくれない。
……最近は尾行がないだけマシかもしれない、なんて思い始めた今日この頃。
制服の試着も終わり、アベルから髪型の合格もでたので、庭に出て木に登り足をぶらぶらさせながら選択授業について考える。
剣術はついていけるかどうか見学するとして。
経営学はどうしようかしら。ティアと一緒なのは嬉しいんだけど、オルティスが教えてくれているし……むしろ経営学を取るより家で実務を手伝うべきよね。いやでも著名な先生が来られるのだから良いかもしれないわね。ちょっとオルティスと相談しましょう。
文学のクラスも面白そう。あとは討論も。
「お嬢様っ!」
ベイルお兄様曰く、考古学はマニアックすぎて人気がないようだけど。でも遺跡の発掘作業は中々経験できないし、面白いかも。取ろうかなぁ。
「お嬢様~!!」
「ん?」
木の上から振り返るとアベルが珍しく切羽詰まった様子で木の下に立っています。
「どうしたの? アベル? 今日はあなたのベッドにカエルは入れていないわよ」
「いえ、違います。お嬢様。というかあの犯人はお嬢様だったんですか……」
「えぇ、ハンスと一緒にやったわよ」
庭師のハンスはお茶目なので一緒に悪戯しました。
「はっ、今はそんな場合じゃない!」
「何? あ、もしかしてやっと見つけたの? アベルが倉庫に保管している何も描いてないキャンバスが全部茶色く塗られていること」
「はぁ!?」
「あら違ったの?」
これはエイミーとやりました。しかしアベルが中々見つけてくれないのでちょっと2人でやきもきしていたのです。綺麗に塗れたと思うのですが。
「その件は……また後程確認するとして……。今は言及しないでおきましょう。お嬢様に……その……お客様がいらっしゃっています」
「今日は何もなかったはずだけど。家庭教師の先生も今日は来ないでしょう? 授業は無い日だもの。あ、イザベラ様なら会わないわよ」
「いえ……レヴィアス公爵令嬢ではなく……」
そろそろこの体勢では首が痛くなってきました。よいしょと枝の上で体の向きを変えます。
「一体、お前は何をしているんだ?」
体の向きを変えると、アベルの他に人が増えていました。黒い髪の不機嫌そうな方です。同い年くらいですかね。さぁ、どこかでお会いしましたかね?
やたらお綺麗な顔をしていらっしゃいますが。そしてそこはかとなく偉そうです。
後方からエイミーが慌てた様子で走ってきます。あら、庭師も何人か鎌や鍬を持って近くにスタンバイしています。
「害をなす気はない。少しそこの……ご令嬢と話をしたいだけだ」
アベルは固い表情ですし、エイミーは息を切らせながらオロオロしています。庭師達は殺気立ってますね。というか、そこの不機嫌男はさっき「ご令嬢」って言うのを渋りましたね! あ、やっと従者らしい男性が走ってきました。
「殿下!!」
ん? 殿下とは??
「先触れも出さずにこのようなことは! お戻りください!」
殿下ってもしかして……この不機嫌男はまさかあの第1王子ですか。
先触れより本人が先に来ました。そもそも先触れ出していないでしょう。
相手は一応王族ですから木から下りた方がいいですね。せっかくまったりとしていたのに。
殿下と従者の攻防は続いています。そういう内輪もめは王宮でやってから来てください。
仕方なくするすると木から下りると、言い合いをしている主従を横目に屋敷に向かいます。
鎌を持ったハンスがささっと後ろに付き従ってくれます。
「お嬢様、刈りやすか?」
「一応王族なのよ」
「見えないでやんすね」
「ふふ。ハンスはまだ口調が直らないわね」
「申し訳ありやせん」
「いいわよ。ハンスらしいもの」
ハンスは休みで実家に帰ると必ず訛って帰ってきます。本人は気にしていますが、私は全く気になりません。エイミーも後ろから付いてきました。アベルがあの主従にはついてくれているので大丈夫でしょう。
「ねぇエイミー、リンゴある? 食べたいわ」
「はい、お嬢様」
エイミーはエプロンのポケットからリンゴを取り出して渡してくれます。
本当はいつものように木の上で食べたかったのに仕方ないです。かなり行儀が悪いですが、サロンに向かいながらそのままリンゴに齧りつきます。
いつもは行儀悪くすると怒るエイミーも第一王子の突然の来訪に内心焦っているのか何も言いません。
「お茶を用意してくれる?」
「かしこまりました」
サロンに到着してリンゴを齧り終えると、エイミーがさっと濡れタオルを出してくれるので手を拭く。
あら、ちょうどアベルがめんどくさい主従を案内してこちらに来ました。私がリンゴを齧っているのが窓の外から見えたのか主従は目を見開いています。
部屋に入ってくる主従に、仕方がないですが、カーテシーをするとやっと殿下の方は我に返ってくれたようです。言い争いをしておられたので木の下ではやりませんでしたのよ。不敬とか言われても知りません。
「近くを通りかかったため突然の来訪になってしまった。突然の訪問にも関わらず、迎えてくれたことを感謝する」
いやいやいや迎えてませんけど。1ミリも歓迎してません。
殿下が勝手に入ってきたんでしょと言いたいのを堪える。
アベルも同じように思っていそうです。眉がヒクヒクと動いています。エイミーは後ろにいるので見えません。
しかし、この国は大丈夫なんでしょうか、こんなのが第1王子で。従者らしき男性は青い顔で胃のあたりをさすっています。カワイソウニ。あら、棒読みでしたね。
「カスクート公爵令嬢、ベラに余計な事を吹き込んでいるのは君だろう」
この第1王子、禿げたらいいのに。そう思った私は悪くないハズ。
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