エイドリアンは良い人! 現場からは以上です!
貴族の令嬢・令息が学園に入るのは12歳からの3年間。
ここでマナーやらダンスやら歴史、外国語などなどを学んで成人として華々しくデビューするのです。
家庭教師をつけている家ならマナーやら何やらは全て出来て当たり前なのですが。
親が親バカを発揮しすぎて基礎が全くなっていない令嬢・令息も毎年一定数いるようです。そして殿下や有力貴族の令嬢・令息が入学する年は、元庶民の生徒の入学が増えます。
あ、そういえばうち、認知してない子供がいたんだよね、みたいな感じでしれっと、庶民として暮らしていた愛人との子供を引き取って学園に放り込んでくる貴族がいるんですよ。
あわよくば殿下の側近として取り立ててもらおう、妻の座を射止めさせようなどと狙って。
そういった令嬢・令息は家庭教師代をケチられているので(家庭教師代ってバカにならないんですよ)、しかも大体は奥様に内緒の愛人との子供ですし、渋々納得して引き取った後でも奥様はやはりお怒りなのでマナー等を教えてもらえず、基礎がほぼ皆無の状態で学園に入学してきますね。
認知するならもっと前からしといてください。
お父様曰く、認知するにしても諸々の手続きはしないといけないので、戸籍統括をしている部署が現在、殺気立つくらい忙しいようです。
これだと学園に魅力がないように思えますが、人脈を作ったり、お父様と陛下(学園時代は王太子)のように卒業しても仲の良い?関係を築いたりできます。
あとは選択科目。履修しなくても良いのですが、政治学や剣術、考古学、経営学、植物学などなどを選択すれば、著名な講師が決まった曜日に来て教えてくれます。何個でもとっていいんですよ。これが最大の魅力ですね。
爵位を継げない次男以下や、政略結婚せずにバリバリ仕事をしたい令嬢たちなんかはこの選択授業をとりまくり、将来の学者、教師、文官、武官、研究者、騎士になっていきます。
もちろん嫡子も選択科目を取って優秀な跡取りに成長していきますよ。
マナー等の一般教養の成績が悪いと選択科目は履修できないので、選択科目を取る方は優秀な方々が多いです。ティアは領地運営に役立ちそうだと経営学を取りたいようですが、マナーやダンスの成績は大丈夫でしょうか。入学前から不安です。もうちょっと一緒に確認した方がいいですかね。
「そういえば学園はどんな感じ?」
「俺は剣術を選択しているから参考にならないかもな」
「うーん。でも剣術も楽しそうよね。私は触りくらいしかやっていないけど、ついていけるかしら」
「騎士団を退団した方々が直々に教えて下さるから厳しいが、学ぶことも多い。剣術のクラスは別に試験があるから体力が無いと難しいかもな。アルトリリーの学年は第1・第2王子も揃って入学されるから。もしあの2人が剣術を選択するとなると、履修人数が増えて面倒だな」
そうなんですよねー。第1王子は第2王子より半年ほど早くお生まれになりました。王子が同い年なので派閥争いも余計活発化してるんですよね。陛下、そのへん考えてくださればいいのに。
「学園はその話題でもちきりだが、王子だけじゃない。公爵令嬢も2人入学してくるしな」
「え? そうなの?」
「1人はお前だ」
「ソウデシタ」
「あとレヴィアス公爵家の」
「ソレモソウデシタ」
「棒読みすぎるだろ」
いやぁ、イザベラ様と学園のことなんてお話していなかったのでど忘れしていました。ついでに、エイドリアンがあまりにも普通に私が登っているのとは違う木に登っているので自分が公爵令嬢だということも忘れかけておりました。
「本当に頼むから木登りは学園でするなよ。木はたくさんあるけど」
きらりと目を輝かせた私にエイドリアンはため息をつきます。
「イザベラ嬢だっけ? あっちは王子の婚約者候補だからまだいいが……お前には婚約者がまだいない状況なんだから学園では気をつけろ」
「はぁ」
「もっと危機感を持てってことだ。高位貴族の婚約者の座を手に入れるために手段を選ばない輩もいるんだ」
「はい、お父様」
「お父様じゃない」
エイドリアンの今日のお小言はなんだか真剣ですね。思わずお父様って言っちゃいました。
「えっと……じゃあお兄様」
「お前の兄でもないんだが」
エイドリアンはため息をつきながら赤い髪をくしゃくしゃと乱します。
「俺もベイルートも学年が違うからそこまで気にかけてやれないからな」
そうでしたね。従兄のベイルお兄様もいらっしゃいますね。エイドリアンはベイルお兄様と剣術のクラスで一緒なんだそうです。ベイルお兄様はデリカシーは皆無ですが、剣はまぁまぁお強いのです。
「そういえばエイドリアンに婚約の話は出てるの?」
「俺は三男だし、騎士としてやっていくつもりだからまだそういうことは考えていない。うちもお前の所と同じで恋愛結婚至上主義だからな」
そうですね。マラカイト侯爵家も珍しく恋愛結婚推しです。だからアーネスト様がとっくに婚約者がいて良い年齢なのにいらっしゃらないのです。
「へぇー。エイドリアンの好きな女性のタイプは?」
「……意見をはっきり言える女性だな」
「意外ね」
「そうか? 自分の意見をしっかり持っていることは素晴らしいじゃないか。俺が間違っている時はしっかり言ってほしいからな」
うーん、エイドリアン、真面目。悩みながらめっちゃ真面目に答えてくれました。
ふふふ、イザベラ様、チャンスあるかもしれませんよ? エイドリアンはイザベラ様のことを第1王子の婚約者候補だと認識していますが。名前も若干あやふやでしたが。
イザベラ様は殿下と陛下に向かって婚約破棄してほしいと言える度胸の持ち主。いやぁ、婚約破棄出来たら望みはあるかも。
「お前はいい加減、好きな人はいないのか?」
「? いないわよ?」
「どんなのがタイプなんだ? 兄達は嫌なんだろう?」
「うーん、そうね。木登りしても怒らない人かしらね」
「……兄達は怒らないぞ」
「じゃあカエルを投げても怒らない人かしら?」
「さすがにそれは……限定されるかもな」
「冗談よ。カエルはお父様の後妻になろうと押しかけてきた方に投げたら卒倒されて面白かっただけよ。さすがの私もそんな日常的にカエルは投げないわ」
「そうだな。庭にそんなにカエルがいるわけでもないよな」
予想した返答と違いますが、さすがエイドリアンです。真面目。
結局、お父様が迎えに来るまで他愛もない話をエイドリアンとしていました。
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