手紙はつづくよ。とりあえず
返事をありがとう。
貴方の優しく慎ましい人となりが表れているようで、とても心が温まる文章だった。
貴方に会ったことはないけれど、自分の判断は正しかったのだと確信できて嬉しい。
私は間違いなく断られたのだと思うのだけれど、貴方が嫌でなければ、もう少しこの手紙のやり取りを続けてもいいだろうか?
追伸
素晴らしいブローチをありがとう。
こんなに繊細な意匠は見たことがない。アシュウォースのブティックのマダムに質問攻めにされてしまったよ。
先日からフェリクスが領地に遊びに来ているから、このブローチは金庫に入れておこうと思う。
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「まあ、お姉様ったら、なんて締まりのないお顔なの」
カミラの声に、ハッと我に返って手紙を後ろ手に隠した。
いつの間に来たのだろう。自室の扉は開け放たれ、その向こうには、愛らしい紫色のドレスをまとった、人形のように美しい妹が立っていた。
「もう、カミラったら。ノックくらいして」
「したわよ。お姉様がニヤニヤしていて、気づかなかっただけでしょう」
「あら、そうだったの? 気づかなくてごめんなさい」
危ないところだった。
アシュウォース伯爵様からの手紙がカミラに見つかれば、絶対に面倒なことになる。
あっという間にお兄様に知らされ、きっと勘違いしたアレンまでギャーギャーと騒ぎ立てるに違いない。
お優しいアシュウォース伯爵様が、お兄様から何か聞いて私に同情してくださったのだ。これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいかない。
最初は、英雄様がいったいどんな理由で私に求婚など、と戦々恐々としていたものの、その内容があまりにも突拍子もないものだったので、すぐに冗談なのだとわかった。
お兄様と親しい方なのだから、悪い方ではないだろう。それに、結婚だのなんだのというのも、私の緊張をほぐすための冗談に違いない。
その後のお手紙から察するに、細やかな心遣いのできる、とても素敵な方のように思えた。
それに、社交の経験がほとんどない私にとって、家族以外の方と手紙をやり取りするのは、とても新鮮で楽しい。
今回のお申し出も、もちろん嬉しかった。
毎日、穴が開くほどお手紙を眺めてしまうくらいには。
「まさか、お姉様が私に隠し事?」
「いいえ、これは刺繍の件で……」
「ああ、平民の市に下ろしているんだったわね。我が家の家格を下げるようなみっともない真似は、いい加減やめたら? 貴族が商売なんて」
「私の趣味が誰かの役に立つなら嬉しいじゃない。それに、報酬でもっと貴方に似合うドレスが買えるわ」
カミラは、私が刺繍を売っていることを快く思っていない。
けれど、こう言うと決まって眉を寄せ、押し黙ってしまう。
こんなに可愛らしい妹なのだもの。少しでも上質なドレスを着て出かけたいに違いない。
引きこもってばかりの私でも、こうして誰かの役に立てる。それが嬉しいのだから、みんなが得をして幸せになれる。そう思っているのだけれど。
「とにかく、隠し事はなしよ。刺繍ばっかりしていないで、ちゃんと休むこと! 目の下にクマができているわ。みっともない!」
カミラはそう言い残すと、バタンと扉を閉めて出ていってしまった。
我が家の愛らしい妹は、いつも素直じゃない。
心配してくれているのなら、そう言えばいいのに。喧嘩腰というか、言葉が荒くなってしまうのは、小さい頃からの癖のようなものだ。
「……アレンの口調と情緒がうつってしまっているのかしら……」
ちょっと、それはどうにかしないといけないかもしれない……。




