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(三)
「どうだったね、表現の飢えを味わう味は」
ふと気づくと、湊は再び京王線の冷たいロングシートに座っていた。
目の前では、漆黒の野良猫がゆっくりと尾を揺らしている。精神をすり潰されるような創作の苦界から戻ってきた湊の額には、冷や汗がびっしりと浮かんでいた。
「どの世界も……痛いのか」
掠れた声で呟く湊に、猫は黄金色の瞳を細めた。
「当然だ。人間は、何かを得るために、必ず何かを殺さなければならない。――だが、まだ終わりではないぞ」
猫が二度目の前足を上げる。
次に開いたのは、煤けたコンクリートの景色から一変、どこか懐かしい緑の匂いを孕んだ、地方都市の穏やかな風景だった。
「次は、『もしも大学卒業後すぐに郷里へ戻り、実家の老舗旅館を継いでいた世界』だ」




