最終話 はじめまして
・出会い
どこ?
呼んでる?
まるで、金縛りにあったような
わたしは理解できなかった
まるで、夢の中の夢から覚めたような
わたしはまだ、理解しようとしなかった
ただうすく、世界で一番大切な光が見えた
・・・
「ハルカ?」
春の日差しが差し込む中、小さな身体がわずかに震える。
日の光を反射していた瞳に自分の顔が映る。
その瞳がまっすぐにこちらをとらえる。
まるで初めて世界を知る子どものように。
「・・・く・・」
かすれたような声。たどたどしい声。
いろいろな想いがかけめぐる。
みんなのこと、自分のこと、ハルカのこと。
あれからたくさんのことをした。
義体技術は、いわば「力業的なアプローチ」で発展してきた。
精密制御のために神経を超大容量ネットワークを介してつなぐ。
まさに力業だ。
心と身体は不可分である。
そう確信した僕は、これを「力業」で突き詰めた。
ものすごく大ざっばに、中には「小さいヒト」が入っている。
もちろんヒトがそのまま入ってるわけではない。
ものの例えだ。
ヒトをクローニングするようなことは倫理的にも許されない。
注目したのは内受容感覚の再現。
心と身体の間でフィードバックのループを確立する。
それが僕の答えだ。
維持装置を含めて筐体に収まるコンパクトさが必要だった。
内受容感覚に必要なごく小さな生体部品と、そのゲイン装置。
これでループが確立できる。
何をどこまで突き詰めるかが最大の争点だった。
でもそこは力業だ。
全部やればいい。思いつく限り全部。
人間の頭の中はまだまだ未知の領域だ。
今後は「うまくだます」こともできるだろう。
それこそソフトウエア的な、スマートにやる方法だ。
ハルカが、いろいろな想いを巡らす僕に気づく。
きっと僕の答えを自身の感覚として受け取ってくれるだろう。
僕を見つめていた彼女の胸で、とくん、と鼓動が跳ねた。
おそらく彼女は、今日、出会った。
そして僕もたぶん、今日、出会った。
「はじめまして」
「はじめまして」
「・・・はるかくん、ちょっと老けた?」
「待たせちゃったね」
頭をかきながら、笑ってみせる。
「・・・っ」
堰を切ったように泣き出した。
子どものように。
声を上げて。
そっと頭をなでる。
「だいじょうぶ?」
「うれしいの」
胸に手をあて顔をあげたハルカ。
どこかすっきりした表情だった。
「いろいろ、あったね」
「うん、いろいろあった」
「これからは、二人で決めていこう」
少し驚いたような顔をしたハルカは小さく笑う。
「そうだね、二人で決めて、二人で歩く」
「ねぇねぇはるかくん、聞いてほしいことがある」
「うん、僕もだよ」
「っと、その前に!ハルカにご報告があるよ」
「なぁに?」
「なんと、めぐると絵里ちゃんに、5人目が生まれます」
「え、ご、5人?」
「そう、なんか・・・がんばったんだよ」
「お、おいわいしなくちゃだね」
「そうだね。いっしょにいこう。みんなも喜ぶ」
「でも、はるかくん、わたしたちには・・・」
「そうだね。今は少しむずかしい」
「うん・・・」
「でも、それも含めて、二人で悩んで二人で決めよう」
「そうだね、ありがとう」
ハルカの涙は、昔見た涙とは違った。
これからくる二人のための、希望に満ちた涙に見えた。
「いこう、はるか!みんなのとこへ」
「うん!はるかくん」
外は満開の桜が舞う
桜のトンネルを抜けると、風が二人を押した
はるかの手にあった赤い傘が空へと舞い上がる
「女神さまに、届くかな」
「それはなあに?」
「いや、なんでもないよ」
手には「000」とだけ小さく表示され、やがて光にとけた
・・・
・女神ふたたび!
「へぇそっかーこうなるんだー」
アネカと呼ばれる女神は小さな光たちを見つめている
悪びれる様子もなく、ただじっと見つめる
やがて光たちは、螺旋を描きながらある一点へと収束していく
今回はこんなものかな、と小さくつぶやいた女神は手をかざす
HARUKA
薄い膜のようなものに文字がうかび、光たちをつつみこむ
光たちは、その場にささやきを残す
「もうなにも心配しなくていいよ」と
女神は永遠の静寂を思わせるように、じっと遠くを見つめている
・・・
不意に振り返った女神は「バチコーン☆」と片目を閉じた
おしまいっ!
最後まで読んでくださってありがとうございます。
少年が少女と出会い、二人で決めて二人で歩みだすまでのお話でした。
書きながらずっと考えていたのは、心はどこに宿るのだろうということです。
心と身体は切り離せないものと考えています。ドキドキする、震える、赤くなる、そうした身体の反応を確認しながら「好きだ」といような気持ちに実感を伴っていくのではないでしょうか。
この積み重ねこそが、心と思っています。
ハルカという少女は、生まれつきの事情やこの世界における技術的な制約で、この実感を少しずつ失っていく存在として描きました。
彼女がなぜ、あそこまでして「標準器」という役割を引き受けたのか。作中では多くを語りませんでしたが、彼女には彼女なりの選ぶ余地のなかった理由がありました。それでも遥と出会って、彼女は初めて「これしかない」ではなく「これがいい」を知っていきます。
物語の中で遥が最後にたどり着いた答えは、派手な奇跡ではありません。
「思いつく限り、全部やる」という、この世界らしい、少し不格好な力業でした。
それでも、彼はハルカのために、心と身体をもう一度つなぎ直す方法を、諦めずに探し続けました。
「これからは、二人で決めていこう」
この一言に辿り着くまでに二人がどれだけの時間を必要としたのか。
それを見届けてくださった皆さんに、心からの感謝を申し上げます。
もしよろしければ、また別の物語で、お会いできれば幸いです。
またね☆




