エピローグ
夜は更けて、月明かりが静かに部屋を濡らす。
水の中にいるような青い世界で、ルーはセデュに抱きしめられ、また夢を見ていた。
ふたりで手を取り合って、生きていく夢だ。ルーはピアノを弾いて、仕事から帰ったセデュが部屋に顔を出す。ふたりはキスして他愛ないことで笑いあい、指を絡ませて睦みあう。
――そんなのはとても、叶うはずのない夢なのだけれど。
「セデュ、ぼくを連れて行って、ここから…きみと、一緒なら、死んでもいいよ、…」
ルーはポツリとそう零して、震える唇を噛み締める。
頬を濡らす涙を優しい指で拭ったセデュイールが、ルーの額に口づける。
「ああ、行こう、ふたりで、ふたりっきりで…」
セデュイールはルーを抱き上げる。青い部屋を出て、灯りの落ちた廊下を進み、シャンデリアの消された階段を降りる。広間の方では途切れがちな嬌声がひきりなしに聞こえている。自身の快楽に夢中になって、誰もふたりに注意を払わない。
階段を降り切るとお仕着せを身に着けた壮年の使用人が、無言で扉を開けてくれる。
黙礼したセデュイールはルーを抱き上げたまま、夜の庭に踏み出した。
広間の灯りはポーチには届かない。青白い月の光が行く先を照らす。砂利道を踏んで、広大な庭を、セデュイールは進む。愛しいひとをその腕に抱いて。なにも恐れるものはないかのように胸を張って。マントに包まれ運ばれるルーはセデュの胸元に頬を寄せて目を閉じる。セデュの甘い香りを胸いっぱいに吸い込む。
またいつ引き離されるかわからない、こんな機会は二度とないかもしれない。
だいすきなセデュに抱かれて、そのあたたかさを、この身に感じられるような機会は。
たとえ次の場面では破綻するかもしれない恋だとしても、ルーはその瞬間、幸せだった。
ここで死にたいとおもえるくらいに、幸せだった。




