浮浪の森の奥深くで
今回は短めです!むしろ今回以降このくらいの長さになるのかなー
趣味程度に、無理のない範囲で投稿するのが一番なのでゆっくり気長にやっていきたいです
俺は獣の皮で出来た安価な靴で森の中のけもの道を駆け抜けていた。靴底が薄いからか踏み固められた道やうっすらと生えた雑草の感触がダイレクトに足裏に伝わってきている気がする。
「ハァッ、ハァッ」
凶暴化したフォレスト・ビーは尻の先にある鋭利な針に赤いパーティクルを纏わせながら俺を追いかけてくる。
ここ浮浪の森はエネミーのAIが他のフィールドと比べ単純化されており、いわゆる初心者向けの低難易度フィールドではあるが、もちろん誰でも簡単になんの工夫もなく完全踏破できるというわけではない。
森の入口や中盤に配置されているエネミーならば基本的にチュートリアルクエストで教えて貰える戦闘技法を用いれば倒すことができるが、終盤に配置されているエネミーはそこから一段階の成長を求められる。
剣の振り方、魔法の唱え方、武器を使った防御と、跳躍による回避。ある程度VRゲームに慣れているベテランプレイヤーならば教えられずともこなせる基本動作だ。魔法だけはかなりそれぞれのゲームの特色が出るため、魔法関連の専門職を取るプレイヤーはどんなに慣れていてもチュートリアルだけは受けるという場合が多い。
俺がそのチュートリアルを受けたのは大体1年ほど前のアルファテストの時だけだ。以降は半分チートのようなGM用のシステムアシストに頼ってプレイしてきた。
「フッ!」
考えていたってどうにもならない。打開するために左足で地面を蹴り、振り向いた勢いのまま右手で握っている直剣で横薙ぎを放つ。
勇気を振り絞って振るった切っ先は、しかしフォレスト・ビーの胴体を傷つけることはなかった。フォレスト・ビーはちょうど剣先がかすらないギリギリの距離だけ後ろに退き、空ぶった直剣が勢いをそのままに地面にめり込むと、すぐさま俺に向かって直進してきた。
「グッ」
あまりの衝撃に右の肺から空気が押し出された。赤い閃光を放ちながらフォレスト・ビーの針が俺の装備した皮のチェストプレートを貫いたのだ。
HPバーが一気に3分の1ほど削れた。
死、という言葉が脳裏をよぎる。ゲーム内で死んだとしても、プレイヤーは少しのデスペナルティを支払って最寄りの街にリスポーンするだけだ。そう分かっていてもやはり目前の恐怖が紛れるわけではない。
「キシャァァァァァァ!!!」
「っ!」
襲い来る針から身を守ろうと、とっさに両手を顔の前で交差させる。
針が、その鋭い赤のパーティクルが目の前1センチメートルに迫った時、予想に反して俺の視界を埋め尽くしたのは、流星のような白い光を纏った鋭さだった。
「ハァァァァ!!!」
キィン、と耳鳴りにも似た金属音があたりに響く。誰かが、俺の眼前に迫ったフォレスト・ビーの針先を剣で弾いたのだ。
その誰かは、そのまま2、3度フォレスト・ビーの胴体を切りつけ、それが青いエフェクトの欠片になると、ようやく俺の方を向いた。
「きみ、危ないところだったね」
見返り美人、とは彼女のことを言うのだろうか。肩にギリギリつかないくらいのさらさらしたストロベリーブロンドにヘーゼルの瞳。
「大丈夫?立てる?」
ヘーゼルの瞳が心配げにこちらを見ている。そこでようやく、彼女に窮地を救われたことを思い出した。
「だい、じょうぶです。ありがとうございます」
「そう?ならいいんだけど。私はエレノア」
「あっ、俺カナリーって言います」
「よろしくね、カナリー」
ニコッと笑ったエレノアは、辺りを見回しながら言葉を続けた。
「こんな奥深くまで来ちゃうなんて。きみ、見たところ初心者だよね。もしかして冒険者商会で初心者指南のガイドブック貰ってなかったりする?」
「貰ってない、デス」
思わず語尾がカタコトになってしまった気がする。ガイドブックとは、有志のプレイヤーによって作られた初心者用のお役立ち情報が載った冊子のことであり、一種のボランティア活動のようなものであるためもちろんタダで配られている。そこには初心者向けのフィールド情報、マップやモンスターの詳細、街に売っている安価な武器防具だったり、広告欄には初心者歓迎のギルドの募集が載っていたりする。
初心者ならまず手に取るよう勧められている冊子であり、当然俺もその存在は知っていた。しかし、プレイヤーが知っている情報というのは、当然制作者である俺も知っている情報なわけで。有り体に言えばその価値をナメていたのだ。そんなものがなくとも、俺なら行けると思ってしまった。その結果がこの醜態であり、有志のプレイヤーたちに顔向けできない。おそらく俺のように初心者用のフィールドで敗走し、そのまま萎えて引退してしまうプレイヤーを減らすためにやってくれているであろう活動を軽視していたのだ。
「その、俺初心者じゃないっていうか、でも戦闘に関しては初心者同然で」
言いにくくて視線をあっちこっちに泳がせてします。
「えっと、どういうことなのかもうちょっと詳しく教えてくれるかな?このゲーム初めて大体何日目なの?」
「大体......11か月くらいのはず」
「それって古参も古参じゃない!じゃあ戦闘に関しては初心者って言ってたのはメインのジョブが戦闘系じゃないからってこと?」
「そう。本職は商人なんだ。ちょっと事情があって、戦闘職にジョブチェンジしようかなって思っててさ」
「ふうん、どっか所属とか、パーティ組むフレンドとか入るの?」
「いや、一応情報収集とか手伝ってくれる人はいるんだけど、一緒に組むかは......向こうには向こうのギルドあるし」
なにせ元々あまりログイン頻度の高くないアカウントである上に、中身がGMだとバレたくなくて長い付き合いはしないようにしている。決してフレンドがいない言い訳ではなく、本当にフレンドを増やさないよう誘いを断ったりしているのだ。
「じゃあさ、うちのギルドに来ない?初心者支援やってるギルドだからずっとっていうのは難しいと思うんだけど、きっとカナリーの助けになると思うよ」
「むしろ、いいのか?」
驚いてそう聞き返した俺に、エレノアはにっこりと笑ってこう言った。
「もちろん!」




