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明朝、空にグラデーションがかかり
闇と光が交わり始める頃。
静まり返る街の中、一台の馬車がカイダールを出た。
馬車で丸1日走ればシスに着く。
馬車の中は緊張感で空気が張っていた。誰も喋らない。
それはそうだ。流浪の魔術師の攻撃力を目の当たりにして
まだ間も無い。なのに再び向かうのだから。
俺自身も緊張してるのが分かる。
少し、気を紛らわせないと
「そういえば、ロナールが戦う所を見た事無いな。
ロナールのさ、攻撃手段って何?」
俺はロナールに会話を求めた。
ロナールが俺の意図に気付いたのか、少し大袈裟に
「よく聞いてくれた!ジュン!
俺はダガーにスリング、ハンドアックスも、色んな
投擲武器を使うぜ?!
中でも1番よく使うのがコイツだな。」
そう言って馬車の中の柱に向けて手を振る。
スカッ!
小気味良い音を立てて何かが柱に刺さった。
ロナールは柱から引き抜き、それを俺の手の上に
乗せる。手のひらサイズくらいの丸いリング、これって
「これが俺の1番の得意武器、チャクラムだ。」
そう言って見せてくれたのは、腰にズラリと
ぶら下げているチャクラム。2、30枚はあろうか?
「1枚、外してみ?引っ張れば外れっから。」
腰に付けている装具から、1枚を引っ張って外す。
音も無く、でもコクンと小気味の良い感触が
手に伝わって外れた。
「これ作んの苦労したんだぜー。普通に備え付けるのは
束ねて腰にぶら下げてるだけだから、移動する時
ジャラジャラ音出ちまってな。とても気配消す行動
出来ねぇからこれ作ったんだ。」
そう言って自慢げに見せるロナールは、お気に入りの
おもちゃを見せる様な顔。
「あたしもこれ、さっき散々聞かされたんだよ。」
ヤムが苦笑いで俺に言ってきた。
ヤムに嬉しそうに見せて語るロナールを、面倒そうに
見るヤムを想像して、クックッと声を殺して笑った。
「どした?ジュン。」
「いや、何でもない。それよりもメイ。」
「ふひゃい!」
あー、やっぱり緊張してるな。
「メイは戦闘の経験ってあるの?」
「は、はい!ず、ずいぶん前だけどヤムが冒険者に
なった頃に一緒に少しだけ。」
「そうだね、懐かしい。
あたしがゴブリンから傷を受けた時に、1本でも
充分治してくれるメイの薬を、一気に5本も
飲まされたっけ。
あっちの方が苦しくて死にそうになったわ。」
思い出し笑いしながら話すヤム。
「あ、あれは1番最初の時じゃん!
しょうがないでしょー?本当に慌てちゃったんだから。
傷治さなきゃとか、毒刃だったらとか
汚い武器だから膿んじゃうかもとか色々考えたら
いっぺんにヤムの口に瓶入れちゃって・・・」
恥ずかしそうに話すメイ。
「でも、今はずいぶん落ち着いて治してくれるよね。
カイダール来る時、毒受けた俺の腕の対処も
上手だったし。頼りにしてるよ、メイ。」
えへへ、と嬉しそうに笑うメイ。
「それとコッツ、この首飾り、また付けててもらって
良いかな?」
コッツに向き直って、ポケットから首飾りを出した。
コッツはフードを外して
「・・・ジュン、かけて。」
と、軽く頭を下げた。あ、またこのくだりやるのね。
「はいはい。良いの?かけるの俺で。」
コッツは軽く下げた頭から上目遣いで
「・・・ジュンがいい。」
「そか、分かった。」
絡まった首飾りの細い鎖を解き、コッツの首にかける。
ちょっと緊張。やっぱり女の子にネックレス
かけるなんて、何度やっても慣れないだろうなぁ。
でも、今回は顔を上げたコッツは、ちょっと嬉しそう。
良かった。ムフンとメイとセフィルに自慢げに見せる。
その一連の行動を固まって見てた2人。
ハッと我に返り、コッツを引っ張って3人でコソコソ
話しを始めた。
「コッツ?な、何でそんなジュン様に当たり前の様に
かけてもらってるの?」
「え?ちょ、ちょっとコッツって、ジ、ジュンの事
どう思ってるの?」
2人から詰め寄られ、2人の顔を交互に見ながら
「・・・ふふ。」
嬉しげにニヤリと笑うコッツ。
「えー!何?分かんないー!」
何か、3人で盛り上がってるなぁ。何話してるか
分からないけど、緊迫感は消えた様で良かった。




