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私が家を建てるまで  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ) 
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私が家を建てるまで 

勿論私は、その通りと答えたんです。

先生は、檻に入れられる必要のある生き物ですと」

カジキ先生はやばいのか?だろうなと思える証拠は満載だ。

全身白い服にこの真っ白な仕事場はどうだ。

こういう潔癖な人物が往々にしてサイコパスの殺人鬼であったりするドラマや映画は多い。

「飛んじゃうんですよね〜 カジキ先生は」

な、な、なんです?く、薬か何かの常習者ですか?飛ぶって・・

「北海道に飛んじゃうんです」

・・・・・・・へえ〜〜〜

そのうちに中澤編集長が汗だくになりながら差し入れを持ってやってきた。

「先生!どうです?調子は」

酒灼けのダミ声が響いた。

「調子いいです」

沈んだ声で、カジキ先生が答えた。

その時玄関ドアが開いて、背の高い、ひょろっとした男子が入ってきた。

「何事ですか?」

彼は藤間くんと言って、カジキ先生のもとに四年いるアシスタントだという。

藤間くんは、十年は使っているだろうと思わせるリュックを下ろしながら聞いた。

編集者二人とカジキ先生が、何も答えなかったので、藤間くんは自分で

「ああ、いつものですか」と答えを出した。

編集長は、2〜3度頭を上下に振って

「では、先生、3日後の原稿アップでよろしくお願いします」

編集者二人が帰った後、キッチンにお湯を沸かしに行ったら、先生のお母様が夕食の支度をしていた。

カレーを作っていたのを見て、八子は思わずお母様に「食べるものは、白くなくていいんですね」と聞いた。


「史生はね、食べるものまで白を好んだことがありましたんですよ。

小学校4年の時でした。白い物以外食べてくれません。あの時は本当に困りました。

白い食べ物といえば、白米に牛乳、お豆腐にクリームチーズと、

ニンジンが入らないクリームシチューに食パンくらいしか思いつ来ません。

本当に困りました」


八子は、七世のことを思い出していた。と言っても八子は覚えていないのだが、

七瀬が3〜4歳の頃白米しか食べなくなった時期があり、往生したと母親が語っていたのだ。

少しでも栄養をと、ふりかけなどかけようものなら、震える程怒り泣き叫んでいたらしい。


「それでですね、史生のかかりつけだったお医者様に相談したんですよ。

すると院長先生が、と言っても、このクリニックは家族経営でしてね、

奥様が受付や経理を担当しているんですのよ。長女の沙織さんが、

看護師を務めていてですね。家族経営ですからね。」

「はあ。家族経営なんですね」

「そうなのよ。他人を入れないからねえ。とっても合理的ですわね」

「本当に」

「で、お医者さんは田西田たにしだ先生がお一人だけなんですよ、

院長先生の他に誰もいないんですよ」

カジキ先生のお母様は、家族経営のクリニックが気に入らないのだろうか?

「田西田先生がとにかく診察に来なさいとおっしゃるから、

翌日田西田クリニックに史生を連れて行ったんです」

田西田先生は史生と二人きりで話したいと言って、

私を待合室に戻して診察室のドアを閉めた。

30分程二人で何やら話していたが、その夜から史生は普通に食事をするようになた。

田西田先生は一体どんな話をしたのか?

「史生、田西田先生になんて言われたの?」

「うん?」

「なんて言われたの?」

「あのね、院長先生がね、人間は色を食べて生きているんだって言うんだ。

体には赤や緑や黄色や黒だって必要で、それを入れてあげないと、

アミバミーバイになっちゃうんだよって」

「何?アミバミーバイって」

「やっぱりママも知らないんだ。アミバミーバイは白いものしか食べない人に感染するウイルスなんだ。

このウイルスに感染すると、アミバミーバイになっちゃうんだって。このことは今まで白いものしか

食べない人なんていなかったから、発見されなかったんだけど、インドで聖なる食事と言って、

白いものしか食べなかった人が、アミバミーバイになっちゃったんで

アミバミーバイが発見されたんだって」

「で、アミバミーバイになると、どうなるの?」

「アミバミーバイっていうウイルスが体に入るとね、

頭にツノがある牛みたいな顔になっちゃうんだって」

「そんなのになったら困るわねえ」

「困らないんだって」

「えええ〜〜っ   どうして?」

「アミバミーバイになったら、世界一の怠け者になるんだもの。

ボロボロの服を着て、ぐちゃぐちゃの髪の毛で、立って歩くのも面倒くさいから、

ゴロゴロ地面を転がって移動するんだって。考えるのも面倒くさくなるから、

ゴミでもなんでも食べちゃうんだって。僕、怠け者になるのはいいけど、

地面を転がって歩きたくないし、絶対にゴミも食べたくない」

「こんな嘘をつく医者って、どう思います?大尊寺さん。

まあ、この嘘のお陰で史生の食事は元に戻ったんですけれどね。

それからはもう史生は、思いついたアミバミーバイの絵ばかり描いて。

田西田先生のお陰で史生は漫画家になれたんだと思っていますよ」


丸2日、カジキ先生の所であまりに疲れたものだから八子は、

カジキ先生のところからの帰り道に十三の家に立ち寄った。

カジキ先生のことを話すと、十三はガハハハハッと笑い出した。

十三はこんな風に笑ったっけ?

「それで、そのカジキ先生は、なんで北海道に飛ぶの?それも、原稿を仕上げないうちに」

「それがね、カジキ先生は、ネームに時間がかかる先生で、苦しんだ末ネームが出来上がると、

ものすごい達成感が来るんだって。やったー!終わったーって。まあ、

これから作画にかからなければいけないことは承知しているのだけど、

自分にご褒美をあげたくなってしまって、どうしても北海道に行ってしまうと」

「なんで、北海道?」

先生の聖地である函館の戸井釜谷漁港に、クロマグロを堪能しに行ってしまうんですって。

「なーんだマグロか。白い恋人かと思ったよ。うまい!」全然上手くないけどね、十三。

「ガハーーーッ ドギャギャギャギャギャッ」

以前の十三はこんな笑い方はしなかった。子供を産んでおばさんになった?

「それで、ペンネームがカジキ マグロなんだ」

「カジキ マグ。因みにカジキは本名だって」

「で?カジキマグロは、作品を描き終わったの?」

「なんとかね。あ、言っておくけど、カジキマグロじゃないからね。カジキ マグだから」

カジキ先生が子どもの頃、白い食べ物を諦めた話をすると、また笑って、

「アミバミーバイか。頭が牛で、怠け者で、インドにいるんだ。いいねえ。見たいなあ」と言う。

十三、本当にいる訳じゃないからね。

「わかってるよ、嫌だなぁ。でも、面白いじゃん、そのお医者さん。今も診療しているのかなあ」

とっくに引退して、今はインドにいるんだって。

「うわあ、すごいね。田西田先生。インドで何をしているの?」

「怠け者をやっているんだって」

「自分がアミバミーバイになったのね!!」

「私、来週の日曜日は仕事が休みなの。カジキ先生を見に行こうかな?あんたカジキ先生のところに行く日?」

「行くけど、見に行くって、失礼よ十三。動物園の動物じゃあないんだから」

「あら、私は、動物にすることは、人間にもするわよ。動物を見に行くことが失礼でないなら、

人を見に行くことだって失礼に当たらないわ」

「また屁理屈こねて。やめて。アシスタントの家族が見に来ること、カジキ先生の身になって思ってみてよ。」

「人の身になるなんて、私にはできない芸当だけど・・・わかった。

やめる。ほんと!見たいけどね。来週の日曜日は深大寺にでも行ってみるわ」

「仕事休めるの?」

「うん。大家さんが、たまには三歩ちゃんと一日遊んだらって、お休みをくれたんだ」

「いい人だね、大家さん」

「いい人だよ」

「十三は、男以外は人に恵まれるね」

「そうかな?」



十三とこんな話をした日の夜八子は、白衣を着た牛が、ゴロゴロと土埃を上げながら転がってくる夢を見た。
















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