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私が家を建てるまで  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ) 
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私が家を建てるまで 

 ある夜、八子の家電が鳴った。夜中の二時に。

「おう、大尊寺?」

「はあ? 誰ですか?」

「俺、小路 わかってるんだろ?」

「・・・こうじ・・誰でしたっけ?」

「いいよ、そういうの。面倒だから。これから行くけど、男、いないよね」

「これから行くって、今夜中の2時ですけど!」

「だからだよ!」

「だ、だからだよって・・・」

「ああ、もう俺のいうこといちいち繰り返すなよ。いいか悪いかだけ言えよ。どっ

ちみちこの二つのうちの一つなんだから。ダメなら諦めるよ。野宿でもするさ。

どう?行っちゃだめなのか?」

そりゃあ駄目に決まってるでしょ!だって、この間会ったばっかりで、家に入れる

関係じゃあまだないし。。。部屋は散らかったまま、掃除を怠っているし。。私は貧乏くさいよれよれの

スエット上下だし、髪もボサボサ。。。

「黙ってるってことは、駄目なんだな。じゃあしょうがない。じゃあな」

あーっ  切っちゃった。なんて奴なのかしら。

1回会ったきりなのに、深夜2時にこれから行っていいかなんていう人がいる?

しかしあっさりと身を引かれてしまうと、なんだか惜しかったような気がする。

ちょっと待たせておいて、ちょこちょこっと片付けて、もうちょっといいTシャツとパンツに

着替えたってよかったかも。

外町 小路と一緒にいたら面白いかもしれない。いやいやいや、八子それだけは駄目だからね。

あいつと関わったらろくな事がないということはもう分かっているはずよ。

とにかくあいつが電話を切ってくれてよかった。関わり合いにならなくてよか

た。だんだん気分が晴れてきて、さあいよいよ次に描く漫画の構想を練るぞ

と、思ってっいるところにまた電話が鳴る。あいつか?  八子は・・・ときめいた。


「八子さん?」

「はい。」

「桜木和歌子の母です」


よ・・夜中の二時ですけど・・何かよっぽどの事が?


「和歌子がそちらにおりませんでしょうか?最近会いましたか?あの子何か

言っていませんでした?聞いていませんか?」電話の向こうから、不安な声が

伝わってくる。和歌子のお母様は、美しい人だ。普段いつ和歌子の家を訪ねて

も、お母様は明るい色に染めた髪に似合う色の服を上品に着こなしていて、

八子は何度も、お母様、出かけるの?と和歌子に聞いたものだった。

「今日は出かけないと思うよ。なんで?」

「お母さん、いつもオシャレで、綺麗だから」

八子の母は十三が捨てた服を拾って着ている。胸元に猫のキャラクターがピンクの

ボンボンに囲われて飛び跳ねていようが、亀がダリ〜〜〜〜なあと叫んでいようが、

御構い無しだ。上から何か着ればわからないからと言って、しかも、何年も着続ける。

これは十三が嫌がって、服だけは、ゴミの中で服とわからないように厳重に縛っ

て、和枝の目を盗んでこっそり捨てていた。

「和歌子のお母さんて、センスはいいし、優しいし、

なんでも話せば理解してくれそうでいいなあ」

「あの人って、外から見てるといい人なのよね。内側は真っ黒だけどね」

真っ黒?何が?どこが?

「しばらく一緒にいるとわかるよ」と、娘に言われていた人は、今、娘の

姿を懸命に追っている。緊張で張り詰めた、悲痛な声を和歌子も聞けばい

いのにと八子は思った。

「ごめんなさい。この頃和歌子とは連絡を取っていなかったのです。泊ま

り込みのアシスタ・・」

「とにかく会ってくださらない?八子さんは娘の親友ですから」

和歌子のお母さんは半ば強引に場所と時間を約束させた。

デニーズ三時。喫煙席で。

えっ 喫煙席?

高校生の頃和歌子が、自分の母親は金持ちの一人娘で、世間知らず。だからクズ

な男にだまくらかされて結婚したのよ。クズな男って私の父親のことよ!あははと言っていた。


和歌子の母親好美は、娘の言いなりの父親を持っていた。

娘の希望を叶えるためだけに存在しているかのような男だと言う。

娘には結婚の祝いとしての豪邸と、持参金をたっぷり持たせたが、夫クズオが僅か三年で使い果たした。

けれどやっぱり甘い父親は、娘の夫に成り代わって経済的な支援を続けた。


苦労を知らない、美しい人は先に来ていた。

彼女はそっと手を上げて、合図を送ってきた。上げられた手が胸元を飾る花に当たって、

花の芯に使われているガラスが一瞬、虹色に輝いた。

「八子さん、娘がどこにいるのか知らないって、本当?」

「はい。この頃私は忙しくて、それに」

「あなた達親友じゃあないの?もう親友をやめたんですか?」

は?・・この人は何を言っているんだ?

親友です。今でも和歌子とは変わらない・・

「なら、なんでも話しているでしょう?」

この人、人が話している最中にお構いなく話して来るんだな。

「聞いていることを、隠さずに話して」

何も聞いていません。和歌子は昔から自分のことはあまり話さないんです。

「じゃあ、和歌子にとって八子さんは親友ではないんでしょう」

「・・・・・・いえ、あのう・・・親友といえどもですね、何もかもを話すわけでは・・」

「それ、私に教えてくださってるの?」

はあああ〜?

この人と話していると、嫌になる。本当に嫌になる。和歌子、行っちゃいな。

この人の手に届かない処へ。

「失礼します。お役に立てなくて申し訳ありませんでした」

彼女はタバコを取り出して口にくわえた。慣れた手つきでタバコに火をつける彼女は

荒んだ小さな人に見えた。


和歌子と最後に会ったのは、外町小路と会った日だった。あの時和歌子が待っていた

のはなんという人だったか。あのあと和歌子はどうしたのだろう?外町小路は知って

いるだろうか?

電話の音。

はい!

「男と一緒?」

外町だ。

一緒だったら何?

「あ、男、いないな」

ムカつく〜〜〜

「飯おごれよ」

なんで?

「酒は俺が奢るからさ」

三十分後八子は小さな居酒屋で外町とテーブルについたことの言い訳に

和歌子の相手のことを聞いた。

「ああ、あれは確か岡本って言ったかな」

確かって、友達でしょ?

「いいや。あの日は撮影所でスタントをしているっていう岡本に一

緒にどうですか?って誘われたから、ついてきただけ」

なんだこいつ。岡本ってやつもクズじゃないか! もう帰ろう、馬鹿

馬鹿しい。

「だけど、思い切ったらしいな、岡本ってやつも。女と逃げるんだから」

帰るのはやめ!

「逃げるって・・・どう言うこと?」

「岡本には妻子がいてだな。女房が絶対に別れないって言うものだからね。

しまいに訴えるって騒ぐものだから、二人は駆け落ちしたんだ。って、聞い

てるよ」

また妻子のある男か。

「マジな話なのかな」外町はぽそりと言った。

どうして?

「今時駆け落ちって、どうよ。なんだか現実味がないからさあ。江戸時代じゃ

ないんだぜ今は」

和歌子の母親は、捜索願いを出すだろうか? 相手の奥さんも。

八子の脳裏に浮かぶあの憔悴した和歌子の母親の顔と、会った事もない岡本といういう男の妻の顔が、

ダブっていた。


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