第10話
沈黙を破ったのは、予想した人物の…笑い声だった
「気に入ったよ、益々気に入った。…ねぇ、ペンギン」
「はい」
「この質問に正直に答えたらボクは絶対に、キミの味方をする。キミの味方の邪魔もしない」
「なに勝手に話し進めて…!」
「大丈夫。ありがとう。…聞きましょう」
「どうして人を殺しちゃいけないんだと思う?」
なんて簡単な問い
「大衆が是としているものが是であり、悪もそうです。そして、人を殺すことが悪とされているからです」
楽しそうに聞いてくれる
もう少し話してみようか
「よく「法律で禁止されている」という回答がありますが、それは明らかに誤答です。法律で定められているのは「人を殺めた際の処罰」であり、「人を殺めてはいけない」とは一切記されていません」
「でも罰があるってことは、いけないことなんだよね?」
「私には母親が「今日のテストの結果が80点以下だったらおやつ1週間なしだからね」と言っているようにしか聞こえません」
「その心は?」
「どちらも人権侵害です」
「あははははっ!うんうん、好きだよ」
「ありがとうございます」
「…じゃあ、次」
「おい!」
ああ、失念していた
質問がひとつだと約束していない
「これで最後にしましょう。ゲームマスターに遅延行為だと怒られてしまいます」
「そっかぁ、そうだね。キミはここに来る前に人を殺したことがある?」
「ありますよ」
数人の息を飲む気配が感じられた
「と言っても事故ですが。キノコの図鑑を見せて採って来てほしいと言ったら道中で食べてしまったんです」
殺したかったのはあの子じゃなかったんだけど…
目的の人物は「自責の念」というもので自殺してくれたので結果オーライ
「それ…なにに使う気だったんだ」
「押し花のようにしたかったんだよね。当時は小学生で、キノコほどの分厚いものでも時間をかければ出来るって考えた。それだけだよ」
針鼠の質問には嘘を吐いていない
問題ないはず
それにこの会話に主催者側が入ってくることはないだろう
仮に本当の目的を知っていたとしても割って入って指摘することはないはず
「毒キノコは綺麗な見た目をしているって聞くからね…」
「うん。それで針鼠、蝶だと思っているさっきのゲームを共にした参加者のことはどう思っていますか?」
「嫌いだよ」
「では3,000万円以下、というのはどうですか」
「良い案だと思う。ついでにペンギンも後退させられるしな」
「ここで声を上げないということは不利になる人物がいないということですね。では[ホルン]、お願いできますか」
「待ちなさい。アタシへの説明の義務があると思わないの」
多分、全員が呆けた顔をしたと思う
事実私は呆けた顔をしている
「分からないかぁ、分からないのかぁ。仕方がないよね、あんな簡単な罠に引っかかったんだから」
「針鼠、いちいち前のゲームのことを持ち出さないで」
「無理だよー。人間関係は言動の積み重ねだから」
好きにはなれそうにはないけれど、波長は合いそう
相手は好きだと言ってくれたし加勢しようか
「蝶、諦めて下さい」
「でもアタシの話しなのに…!」
「この話しの流れで分からない貴方が愚者なだけです。こう醜態を晒してしまっては味方をする者は現れません。分からないのなら黙って受け入れるのが一番利口な選択でした。貴方は選択を間違えたんです」
「選択を…間違えた…」
なんだろう、急に声の様子が…
「いや!死にたくない!」
大音量でスピーカーから聞こえた声に思わず顔をしかめる
「落ち着いて下さい。このゲームでは死なないはずです」
「アンタの仮定なんて信じられるわけない!」
「経験は少ないかもしれませんが、少なくとも貴方よりは利口です」
「[ペンギン]、人は死に直面したときどんなに理論的なことを言われても受け入れられないものです。それが例え自分に有利であったとしても、そうであるか否かの判断が既に出来なくなっているんですよ」
「なにかスイッチを押す言葉を言ってしまったということでしょうか」
「そう、だな…。出来れば俺も言われたくない。少なくとも数十秒は思考が停止するだろうな」
それは大変な言葉を言ってしまった
「ここでは様々な選択があります。オプションの使用、メッセージなら伝え方、無限にある選択肢の中から「正しい選択」をしなくては生き残れない。それがこれまででした」
選択を間違えた
この言葉か
これは「お前は死ぬ」と言われていることと同義
それなら、さっきのゲームで私は選択を間違えなかったとでも?
沢山人が死んだのに
たった1/4しか生き残れなかったのに
それとも自分の運命は自分で切り開けってこと?
…あ、そうか




