第二幕 第三十ハ場
村長の屋敷のほの暗い書斎では、ランプの明かりに照らし出された二人の姿があった。若者の猟師ハインリッヒに化けたヨリンデに、村長のヨハネス。ヨリンデは村長に猟銃を向けている。
村長はひざまずき、両手を組み合わせると必死に哀願する。「どうか堪忍してくれヨリンデ。頼む、頼むから」
「だったら家族を失う苦しみを、あんたにも味あわせてあげるよ」猟師は怒りの形相で冷徹に言った。「あんたの妻と娘の命を差し出せ。そうすれば命だけは助けてやるよ」
「そ、そんな。あんまりです。ど、どうか、もっと別の償いで——」
「だったら妻か娘かのどちらかの命でいい。これ以上の譲歩はない。口答えすれば引き金を引くよ。さあ妻と娘、どっちの命をくれるんだい。五秒以内に答えろ」
村長はすぐさま答える。「妻です」
「そうかいなら娘の命をいただくとするよ」
予想外の展開に村長は慌てだす。「そ、そんな待ってください。話が違うじゃないか」
「妻より娘の方が大事なんだろ。だったら娘を殺した方があんたは苦しむ」
「お願いです娘だけは勘弁してください」
「だったらお前か娘、どちらかの命を差し出せ。五秒以内に答えろ」
村長は苦渋に満ちた表情を浮かべた。「……私です」
おっぱい祭りの最後を彩る花火があがり、色鮮やかな光が窓から差し込む。それはおっぱいコンテストの優勝者が決まった瞬間だった。
「そうかい。ならお前の命をいただくよ」猟師は引き金を引いた。
その瞬間、村長は叫び声をあげて身構えた。銃弾は身構える村長を通り過ぎ、背後にある本棚へと着弾し、数冊の本を叩き落とす。自分が撃たれていないと悟った村長は、どっと力が抜けたかのようにその場に崩れ落ちた。
「顔を上げろヨハネス」猟師は言った。「お前のような外道が自分の命を差し出して娘を庇うとは思わなかったよ。いいだろ。最初の約束通り妻の命で許してやる」
極度の緊張状態から解放された村長の顔には玉のような汗が流れ、全力疾走後のように息を荒らげている。震える手足でなんとか立ち上がろうとするがうまくいかず、書見机にもたれるようにしてなんとか立ち上がろうとするも、バランスを崩し、書見机の引き出しの中身をぶちまけながら床に倒れた。村長は猟師に背を向け四つん這いの状態で荒い息を続けている。
「よっぽど恐ろしかったようですね」猟師はうずくまる村長を見下ろす。「これにこりたら二度と悪巧みなどしないこと。もしハンスを殺して再び村長の座に返り咲こうなどとしたら、その時はすぐさま八つ裂きにしてやるよ」
村長は猟師に背を向けたまま言う。「……これは命がけの賭けじゃった」
「賭け?」猟師は問いただす。「いったい何の事です?」
村長はぶちまけた引き出しの中身を集めながら、なにやら作業をしている。「ヨリンデよ。お前さんの事じゃ、娘の命を差し出すと言えば迷わずワシを撃ち殺したに違いない。だから自分の命を差し出すと言ったのじゃ。一か八かの賭けじゃった。だが予想通りの展開になった」
猟師は眉根にしわを寄せた。
「お前が誰に化けてこの村に潜入していたのかわかったよ」村長は話を続けた。「よくよく考えてみれば、お前が復讐相手を探すためには村の重役達を探らなければならない。なんせおっぱいコンテストの投票用紙を偽造できるのは重役達だけだからのう。そのためにどうすればいいか」そこで一呼吸間を置く。「答えは村長の妻になること。そうだろトゥルーデ」
猟師が光り瞬くと、トゥルーデの姿へと変貌する。「ええ、そうですよ。あなた」抑揚のない声で言った。「村長の妻の座につけば、村の重役達を探るのも容易になりますからね」
「どおりでワシ好みの女が現れるわけだ。しかし皮肉じゃのう。復讐相手を探すために復讐相手の妻になるとは」村長はそこで深く息をつく。「どうしてワシが犯人だとわかった?」
「あなたが話してくれたヨリンデの話が、私の記憶のものと違ってましたからね。だからすぐに怪しいと思いましたよ。何か隠していると」
「本人の前で本人の話をすればバレるか。あたりまえのことじゃな」村長は苦笑する。「一つ聞きたい事がある。どうしておっぱい村を中止しろと脅迫状を書いた。そんなことすれば村中大騒ぎになり、犯人探しどころじゃない事ぐらいわかっていたはずだ」
「あなたがこの件を騒ぎ立てずに、内々に解決しようとする事ぐらい予想ついていましたよ。なんせ私はあなたの妻ですからね。問題を解決するために重役達が集まったところで女狐を使い、ヨリンデの名を出して反応を見る予定でしたが、まさか重役達にすら内緒で解決しようとするとは予想外でした。ほんと今日という日は予想外の出来事が多すぎた」
「そうか、そうじゃったのか」村長は体を起こし正座の状態になった。「ああ、それともう一つ聞きたい事がある。娘のマリィーはこの件に絡んでいるのか?」
「あの子は何も知らないわ。これは私だけの問題、あの子を巻き込むわけにはいかない」
「美しい愛じゃのう。拾った子といえそこまで愛せるとは。いやいや、おかしな事とは言わぬよ。ワシもマリィーを可愛く思っておる。だからこそコブ付きのお前さんとも結婚してやったんじゃ」村長はそこで笑いを漏らす。「じつはのう、ワシはお前よりもマリィーのほうがお気に入りなんじゃ。あいつは大きくなったらいい女になるぞ。そしたらワシの女にしてやる」
「ヨハネス何を考えている!」トゥルーデの語気が鋭くなった。「そんなことしたら——」
やにわに村長が振り向き隠し持っていた銃を撃った。銃弾はトゥルーデのみぞおちに着弾する。トゥルーデはあおむけの状態で倒れると動かなくなり、床に血を流す。
村長は立ち上がり、にやりと笑う。「机の引き出しに銃が隠されているのも予想外じゃったろ」




