第一幕 第十六場
村長が自室のイスに腰掛け気を休めていると、そこへ妻のトゥルーデがやって来た。
「あなたこれはどういうことですか?」トゥルーデが非難するかのような口調で言った。
「ん?」村長はイスから立ち上がる。「いったい何のことじゃ?」
「村中が新しい村長の話で持ち切りです」
「予定通りではないか」
「予定通り?」トゥルーデが眉間にしわを寄せた。「どうして村長がヒルデブラントさんではなくハンスさんなのですか?」
「村一番の金持ちであるヒルデブラントを犠牲にするのは、このおっぱい村にとって大損失じゃろ。だったら、いてもいなくてもどっちでもいい馬鹿なハンスが犠牲になる方がよかろう」
トゥルーデの目が見開いた。「……あなたそれ本気で言っているのですか?」
「もちろん本気だとも。よく考えても見なさい。この二人を天秤に載せて、どっちがこのおっぱい村にとって必要不可欠か。答えは考えるまでもなかろうに。それにハンスのやつも自ら進んで村長になると言ってくれたぞ」
「ハンスさんはおっぱい村の村長が命を狙われていることを承知なのですか」
村長は首を横に振った。「いいや、知らん」
「なんてことをしたのよ!」トゥルーデが怒鳴った。「ハンスさんを見殺しにするつもり!」
「まあまあ怒るでないトゥルーデよ」村長がなだめかすような口調になる。「さっきも言ったろ。犠牲になるなら、いらない人間を使えばいい。それに安心せい。ハンスが死んだらワシが再び村長の座に就くよう公約させておる」
「あなたって人はどこまで卑劣なの」トゥルーデの顔に侮蔑の色が広がる。
「なんじゃその顔は」村長は顔をしかめた。「お前だって村長の妻の座がおしいだろ。この贅沢な暮らしが大好きだろ。だからほいほいとワシと結婚したくせに」
「私はそんなつもりで結婚したわけではありません」
「ふん、口ではなんとでも言えるわな。もし違うというのならば、妻としてワシに従え。ワシはおっぱい村の村長の座を手にするために苦労して来た。今さらそれを他人に譲るつもりはない。ヨリンデとか言う魔女に逆恨みされ、辞めるともりもない」
「だからって何も知らない人を犠牲にするのですか。私にはできません。あなた、妻としてお願いします。ハンスさんに真実を話して今すぐこの話を——」
トゥルーデの顔に村長の平手打ちが飛んだ。
「しゃべったらただじゃおかないぞ。いいな」
トゥルーデは目に涙をうかべると無言で部屋を後にした。
村長はイスに腰掛けると大きく息を吐いた。
「やれやれ。あつかましいにもほどがある」




