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Wind flower   作者: swan
第四章
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喧騒の中


 ケノワは早足で暗い通りを歩く。


 どうしてこんなことになったのかは全く不明だが、マノンが言っていた辺境伯に会いに行くのだ。

 自分をみて辺境伯というならば行く場所は一カ所しかない。



 兄、ロットのところだ。


 ケノワがロットの屋敷についた時、そこは騒然としていた。

 玄関ホールの扉を開けたケノワと入れ違いで数人外へ出ていく。

 厳しい顔のロットが屋敷の使用人に指示を与えていた。その彼に近づくと初めてケノワの訪問に気づいたのか執事のブルクハルトとロットが顔を上げる。


「ケノワ、珍しいなうちに自ら来るなんて。どうかしたのかい?」


 それまで寄せていた眉間のしわを緩めながらロットが言ったが、ケノワは無視して尋ねた。


「…何かあったのですか?」

「どうしてだい?」


 平静を装った顔でロットは微笑んで見せた。

 どうしてなど、何故そう尋ね返すのが不思議なくらいこの家は浮ついている。いくら何事にも鈍感なケノワでもハッキリわかる。何かが起こっている。


「…何か、ありましたよね?」

「用事があったのなら言ってごらん」


 何を自分に隠すのか兄はケノワの言葉を無視する。

 若干苛立ちのようなものを感じた。


 そこに、玄関の扉が乱暴に開けられた。

 あまりに乱暴過ぎて一度大きく開いた扉が壁に当たり勢いよく閉じたほどだ。何も言わず一緒に立っていたブルクハルト共々三人はそちらに目を向けた。


「ロット! こいつは掴まえたがやっぱり見つからないぞ!」


 大きな声でそう報告したのは次兄のリーガルだった。その後ろには半泣きの末妹のフリーダが立っていた。

 ロットはフリーダをみとめると、いつもより低い声を出した。


「フリーダ、家にいるように言わなかったか? 王都に慣れていないのに勝手に出て余計な手間をかけるのは大人のする事じゃない」


 びくりと震えたフリーダは堪え切れなくなったのか涙を溢しながら言った。


「だって、私が目を離したから居なくなっちゃったんだもの! 病気持ってるのに…心配でじっとしていられなかったの」


 妹を諭すようにリーガルも口を開く。


「だからといって何も言わずに行くのは駄目なことだろう」

「…ごめんなさい」


 さらに俯くフリーダにリーガルはロッドに向けて肩をすくませて見せた。そうしているうちに奥から王家に嫁にいったはずのノーマまで現れた。


「フリーダ!もうあなたの心配までしちゃったわ! …あれ、ケノワお兄様もいらしてくれたの?」

「ケノワお兄さまぁ~。お兄様にまで迷惑かけてごめんなさいっ」

「ホントだ。ケノワは呼ばないって言ってなかったか?」


 三人の言葉に改めてことさらゆっくりとわざとたずねる。


「…ロット兄上、私を何に呼ばないはずだったのですか?」


「「「「…」」」」


 一瞬にして重い沈黙がホールを覆い、慌ただしく動いていた使用人たちさえも静かになった。ケノワから目線を逸らすロットにケノワはいつも以上に無表情な顔で溜息を洩らす。

 別にこの兄妹の輪に入れない事には慣れているが、尋ねている事にさえ答えられないのは苛立ちも覚えてしまう。これまでのケノワであればそういう感情も薄かったが、レイダといたことでいろんな感性の影響を受けているようだった。


「まあ、大体想像はついてますが」


 ケノワの言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。


「ケノワお兄様、想像ってどんな?」


 青い顔でフリーダが先を促す。


「…どういう経路か知りませんが、レイダの妹マノンが王都に来ていて行方不明」


 状況から見てほとんど間違いがないと判断した。

 皆の顔が凍りついている。


「…ケノワお前、実は何かの能力者だったのか?」


 ロットが全員を代表して何とも嬉しくない事を言う。


「そんな事は全力で否定したいですね」

「だったらなんで?」

「私のアパートメントの前に発作を起こしてしゃがみ込んでたので、保護してます」

「マノンちゃん大丈夫なの!? 発作おこしてるのに置いてくるなんてどうしてそんな危険な事するんですか!?」


 発作という言葉にフリーダがケノワに掴みかかる勢いで突進してくる。


「…レイダが看てる。そもそもここからマノンが来ているかを確認しに来た。間違いないようだが…」

「レイダちゃんが? じゃあ薬は飲ませてあるの?」

「ああ、レイダが教えてくれたからな」

「よ、良かった…」

「レイダちゃんが居てくれるなら安心ね」


 ノーマがほっとしたように妹の肩を抱く。


「……そのレイダの方が危ないから早くマノンを引き取って欲しいんだが」


 ケノワの憮然とした言葉にみな困惑の表情を浮かべる。


「どうして? 姉のレイダちゃんは病気持ってないでしょう?」

「看病だってできるはずだし…」

「病気じゃなくても精神が追い詰められたら危ないと言わないのか」


 ケノワの持つ空気が変わった事に口を開きかけていた妹たちが固まる。口元には笑みを浮かべているのに冷たい刺すような雰囲気に息をのむ。


「私はレイダに何かあったら、それがあの幼い妹であっても許さない」


 それがケノワの本心だった。兄妹にさえやはり見た目通り冷淡だと言われても構わない。


 今、ケノワにとって大事なのはレイダなのだ。



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