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第1話 耐え続けてきた日常の終わり

「ごめん、ロゼッタ。婚約を解消してほしい」

「私のせいなの。ごめんなさい、ロゼッタ姉さん」

「──っ」


 私の人生において、家族も友人も、誰も彼もが一度でも私を優先して、一番にしてくれることはなかった。

 それは婚約者のフォビオも同じで、その日──私の心はズタズタにされて壊された。



 ***



 私ロゼッタはクライフェルゼ王国の商家の次女として生まれた。平民にしては裕福な部類に入ると思う。それでも私の日々は常に上の姉と下の妹、両親の面倒ごとを引き受ける役割を押し付けられてきた。

 くすんだ赤茶色(レッド・コーラル)の髪に、年齢よりも若くて幼く見える顔立ち。猫目でいつも不機嫌そうと言われる。平凡で地味、事務仕事ができる無愛想な侍女。それが周囲の認識だった。


 誰も私を魔導具技師だとは認識していない。でもそれは仕方がないことでもある。いち早く私の才能に気付いたスザンヌ姉さんは、この国で禁じられた奴隷紋を私に施したからだ。

 それも私が三歳の時に「これを描いて見て」と、私に奴隷紋を作らせたのだから、質が悪い。魔導具の修復、開発、付与(エンチャント・)刺繍加護(エンブロイダリー)魔法省略巻(スクロール)付与(エンチャント)魔法(・マジック)などの功績は、全て姉の手柄にされた。


「ロゼッタ。次の納品は来週だから、ちゃんと終わらせておきなさいよ」

「スザンヌ姉さん、この量は──」

「終わらせるのよ、絶対に!」


 スザンヌ姉さんはガーネットのような真っ赤で艶やかな長い髪、磨き上げられた肌、目鼻立ちが整った美女。常に攻撃的で、自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こす。外では押さえているようだが、家族間では容赦ない。

 少しでも逆らえば奴隷紋を使ってくる。でも今日は機嫌が良いのか、口元を緩ませた。


「私、明日からシュプゼーレ聖魔法国に行くのよ。あちらの国では魔導具や魔法がより研究されているけれど、それでも私の夫が経営しているリーニャ商会の商品が欲しいって、新しい支店を出すことが決まったのよ。すごいでしょう。ふふっ、いいことロゼッタ、納品日までに絶対に、完璧に仕上げておきなさい。結婚まであと少しなんだから、ねえ」


 ──そんなの無理よ。どう頑張っても納品リストの数も質も一人じゃ無理。

 そうスザンヌ姉さんに伝えても、取り合ってはくれない。逆らえば奴隷紋を使って体に激痛を走らせる。

 外に助けを求めようとして見つかった時は、酷い折檻が待っていた。


 それでも私が家を飛び出そうとするので、スザンヌ姉さんは「婚約者(フォビオ)と結婚したらその奴隷紋を解除してあげるわよ」と約束をしてくれた。

 期間限定。だから今まで耐えた。

 耐えるしかなかった。

 私が叫んでも、助けを求めても両親は見て見ぬふり。


「ロゼッタ、ホテル経営が回復してきたがまだまだ人手が足りない。……わかってくれ」


 ──そう言って両親はホテル経営などの事務や雑務を丸投げして、自分たちは人脈作りだとサロンや社交界に出て贅沢三昧。

 スザンヌ姉さんの依頼が入って時間が無いといっても、聞いてくれない。そのせいでいつも寝不足かつ魔力欠乏症一歩手前だ。食事だって使用人と同じか、それ以下。


「こほこほっ……ロゼッタ姉さん、いつもごめんなさい」


 末の妹はふわふわの薄桃色(ローズクォーツ色)の髪で、肌は色白の人形のような愛くるしい女の子だ。贔屓目に見てもお人形のように可愛らしい。もっとも性格はさほど可愛らしくもないし、好きでもない。病弱なのは本当だが、少し風邪が引きやすいだけ。


「受付嬢……しかできないけれど、頑張るわね」


 ──これ以上余計な仕事を増やさないで。『男性客に色気を使った』と毎回夫婦で来られる奥様やご夫人からの抗議文が後をたたない。だから『受付嬢は辞めてほしい』と言っても両親も婚約者も私が冷たい人間だと言って、取り合わない。仕事ばかりが増えていく。


 誰も私の言葉を聞いてくれないし、耳を傾けようとしない。

 婚約者のフォビオだって、ある時を境に距離を置くようになった。アデーレと親しい様子なのはなんとなく分かっていた。でも日々の仕事量と、奴隷紋のせいで不満を押さえつけられて、何もできずに耐えるしかなかった。


 フォビオと結婚することになったら、奴隷紋を解除する。そうスザンヌ姉さんの言葉だけが希望だった。


 奴隷制度、奴隷紋もクライフェルゼ王国ではすでに廃れ、秘密裏に使ったとバレたら大罪人となる。だから姉は公になることを嫌って、その約束を飲んだ。私からこの秘密を口にすることも、行動もできないけれど、結婚が唯一の逃げ道だった。

 ()()()()()

 そんなある日、珍しく婚約者から「話がある」と手紙が届き、その日を楽しみにしていた。

 そう客間に入るまでは──。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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