閑話休題12〜ユウは拗ねている
「本当に、良くなかったと思ってるわ」
タイムの話題になった時、やっぱりユウの機嫌が良くないことがリリーとしては気になって、もう一度謝ってみたら、ユウの機嫌がもっと良くなくなってしまった。
「いや……あいつが悪い」
「でも機嫌が、良くない、わ、よね?」
もう気付かないふりでもしておけば良かったと、リリーは後悔し始めた。
「まぁ、確かに」
リリーはユウを覗き込んでみたら、ユウと目が合った。ユウは機嫌が悪いというよりは、拗ねている様な顔をしている。
「余裕がないだけだ。格好悪い」
そう言って少しの沈黙を置いて、ユウが顔を上げた。
「リリからキスして」
「え?!」
また突拍子もない事をお願いしてくるユウに、リリーは全力で後悔している。
「してくれたら余裕を持てる気がする」
「私、から……」
「そうそう」
ユウは知っている。
こんな時は何故か意地になって頑張るリリーを。
そして、その姿が可愛いのも。
「待って、心の準備をっ。時間が欲しいわ」
もう機嫌が良くなってきているかもしれないのを頑張って隠しながら、ユウは答えた。
「待つ」
何分経っただろうか、意を決したリリーが顔を上げた。
「よし、いいわ!」
リリーはユウの肩に手を置いて、少しずつ顔を近付けたが……すんでのところで赤面して離してしまった。
リリーは涙目になって俯いている。
「ユウ、お願い、目を閉じててくれないかしら」
ずっとユウがリリーの目を見てくるので、リリーは恥ずかしくて一定の距離から近付けずにいる。
「嫌だ」
ユウはニヤつくのを我慢しながら答えたが、いっぱいいっぱいのリリーは全く気付かない。
◇
「皇太子殿下! にご挨拶申し上げます」
タイムがリリーと出掛けた日の翌朝、ユウは学園に着いて早々タイムに呼び止められ挨拶された。
手合わせをというので、リリーが来るまで時間もあるし練習場へ向かうことに。
「毎朝、実家で手合わせをしてたんで。やらないと鈍るんすよね。付き合って頂き、ありがとうございます」
それなりにタイムは礼儀正しい。
「ああ、構わない」
練習用の剣を振り回して、タイムは構えてからユウが構えるのを確認して、ニヤリと笑って言った。
「俺、昨日リリーにキスしました。リリーが心ここにあらずだったんで、イラッとして、つい」
「…………」
ユウは無言になり、ただタイムに視線を向けたままだ。
「殿下は怒ったら喋らなくなるんすね」
もう一度剣を振り回したタイムは飄々としている。
「……そうみたいだ」
「今日は宣戦布告で来ました」
見事なお辞儀をして、タイムは剣を握り直して構えた。
少し緊張しているらしく、タイムには珍しく持つ手が定まらない。
タイムが先制すると、ユウが受け止めて払った。
「無駄だ。リリは諦めろ」
「諦められてたら、もう諦めてんすよ!!」
◇
「え、リリーは皇太子の婚約者なんすか?!」
「そうそう、弟と婚約しちゃってるんだよな。タイム長男だろ? ウィステリア領どうすんだ?」
「あー……ちょっと何日か考えます」
「自分の人生に関わることの即決は危険だ。何日でも考えろ」と尊敬してる父親のパクツに言われて以来、タイムはそうしている。
4日後にタイムはパクツの執務室にアキラを呼び、アキラと何も知らされていないパクツの向かい側に畏まって座った。
「リリーを諦めるのは無理です」
パクツは一瞬呆気に取られたが、納得顔で聞き始めた。
ここ最近のタイムは常に上の空で、母親のココアナや弟妹達から苦情がきていたのだ。
「諦めて適当に結婚して、も考えたんだけど、どうしても無理でした」
「父上が仰るように高嶺の花です。でもそれに見合うように領地の主になる者として努力していきます。後継者は甥から養子をとります。弟妹の誰かに優秀な子は生まれるでしょうし」
12才でここまで考えられるのは、母親であるココアナの教育の賜物かとパクツは感心しながらタイムの言葉を受け入れていた。
「まぁ、好きにしろ」
パクツ譲りの悪戯っ子の笑顔を、タイムはアキラに向けた。
「とりあえず生きてたら、いつかチャンスはあると思うんすよね。俺が一番若いから」
あ、アキラさん怒ってら。
◇
アキラの怒り顔を思い出して、タイムはふっと笑ってからユウを見定めた。
「だから、俺は気が済むまで待つって決めましたんで!!」
ユウとタイムの力は拮抗していて、打ち合いが続く。
暫くすると、タイムが力を緩めユウから距離をとった。
「手合わせしながら言い合いをすると、スッキリしますね! ありがとうございました」
タイムはきちんとお辞儀をして、ユウに礼をする。
ユウは呆気にとられ、タイムの畏まった態度をただ見ているだけになった。
「じゃ、リリー迎えに行ってきます!!」
タイムは手を上げて挨拶をして、ダッシュで部屋から出て行った。
タイムの足音がもう遠くに聞こえる。
直ぐにリリーの乗った馬車が到着する時間になっている事に気付いて、ユウも急いで部屋から出てタイムを追いかけた。
「何なんだ、あいつ?! 俺は全然スッキリしないんだが?!」
兄弟揃ってタイムに翻弄されているとは、アキラもユウも露知らず。
◇
そんな事があったとリリーに伝えることも出来ず、ユウはリリーを待っている。
リリーは腹を括った。ソファに膝をついて座り、ゆうの唇に自分の唇を重ねた。
「……これで、大丈夫かしら」
顔が真っ赤になって目を合わせられなくなったリリーが可愛くて、ユウは無言でリリーを自分の足の上に座らせて抱きしめた。
「ユウ?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫」
リリーを狙う男が減らないのはユウは気に入らないが、それはリリーの所為ではない。
「それはどっちなの」
リリーはふふっと笑っている。
ああ、今日もリリーが大好きだ。
そう思いながら、ユウはリリーにキスをした。




