78…ダンスパーティー①リリーのお相手
リリーが誰と踊るのか全く情報が流れない中、ついにダンスパーティーの日が来た。
学園のダンスホールで行われ、2階や3階の客席から学生のみならず学生の招待者も観覧することが出来る。
今回はオウカ公爵とウィステリア候爵ことパクツが招待者としてタイムと一緒に3人で貴族席に座っている。
「リリーは誰と踊るんすか?」
「さあ、誰だろうね」
考えているタイムの横で、絶対知ってんだろという顔のパクツがオウカ公爵を見て溜息をついている。
まぁ知ってんなら大丈夫だろ……
静かなホールに出場者達の足音だけが響く。
誰もが言葉を発せなかった。
今入場してきた1組のペアに客席ほぼ全員が見入っている。
オウカ公爵だけがドヤ顔をしているが……
そして徐々にザワつき始めた。
「あれは……」
「リリー様??」
「リリー様、ドレスを着ていないわ」
リリーが髪をアップにしてまとめ、男物の正装を少し女性らしく変えた服装にして身を包んで、隣に綺麗なご令嬢をエスコートして会場に入って来た。
「隣は……カヨさんじゃないか?!」
ジュンが、生徒会席から身を乗り出して驚いている。
そう、隣の綺麗なご令嬢はカヨだった。
カヨは昨年卒業したが、ダンスパーティーはどちらかが学生であれば良いので、リリーの相手を引受けてくれた。
雰囲気が違う原因は眼鏡だろうか。
カヨは眼鏡が野暮ったくてダンス向きではないと気にしていたので、リリーの提案で仮面舞踏会のような、でも線を細くしておしゃれに仕上げた眼鏡を特注して作ったのだ。
元々リリーの方がカヨより背が高いが、差は然程無い。
リリーは踵が高めのブーツを履き、カヨは低めのヒールにすることで、身長差は程よくなった。
◇
リリーもユウやアキラ以外の学園の男性と踊ることに少し抵抗があった。
「そんな我儘言っていられないのよね……タイムはもう少し身長差とダンスの練習時間が足りないし、頼むとしたらトウマかしら」
パートナーに悩んでいた時、オウカ公爵邸の廊下に飾ってある剣術大会で着た服が目に止まった。
リリーの目が大きくなる。
「………これだわ!」
服を廊下に飾ることに抵抗があったので、リリーは反対しかしていなかったのだけれど。
飾ることを押通してくれた父と兄にこんなに感謝することになるとは、リリーは思いもしなかった。
そこからリリーは急いでカヨとオウカ公爵へ秘密裏に相談に行き、大賛成のオウカ公爵が全面協力をして今回の衣装が出来たのだ。
長年のリリーへの気持ちを拗らせているトウマは、自分の知らない所で命拾いしていた。
踊っていたらどうなっていたか分からない……
超絶上手いアキラのダンスを間近で見てきたリリーは、他の男子学生と比べ物にならないくらい卓越している。
やはり、良いお見本が有ると無いとでは雲泥の差だ。
リリーは、ダンス中はアキラに成り切る様にしていた。
しかし成り切れば成り切るほど、リリーが踊りやすい様にとアキラが配慮してくれていた事が痛いほど分かって、泣いてしまう時もあった。
そんなことを思い出しながら、リリーは笑顔でカヨの手をとりエスコートする。
アキラには到底なれないけれど、リリーも負けじとカヨをエスコートするように踊る。
まるで御伽話のお姫様と王子様の様に。
剣術大会で得た多くのファンのみならず、新入生たちをも魅了して得た多くの黄色い声援の中、リリーとカヨは3曲踊り切った。
大声援の中、ダンスを踊った面々は手を振って応える。
勿論、リリーとカヨも同様だが、一段と黄色い声援が大きい。
もう、リリー様ファンクラブでも在るのかもしれないというくらいに。
リリーは嬉しくなって、手を振った後に、アキラのように格好をつけてお辞儀してみた。
言わずもがな、今日一番の盛り上がりとなった。
◇
ユウがやれやれといった具合に、頬杖をついて二階の貴賓席から見ている。
「近くに行かないのか?」
「いや、今行くのはダメだ」
自分が行ってしまっては周りに気を使わせてしまうからと、ユウは思った。
「まぁ、そうだよな。盛り上がってるし、遠いし、水を差すことになるか」
「良いんだ、朝一に見たから」
「まじか、良いなー」
?!?!
ユウは後を勢いよく振返った。
何も考えず普通に会話をしていたが、周りには誰も居なかったはずだ。何よりも聞き慣れた声だ。
「あ……兄上?!」
ユウとほぼ1年会っていなかったアキラがいる。
貴賓席の上部に肘を置いて頬杖つきながら、そこに座っているユウを上から見ている。
「よっ、元気か? リリが誰と踊るのかちょっと気になってしょうがなくてさー。男役でも格好がつくのが流石だよな! しかも上手い。これは優勝するだろ」
「まぁ、確かに。リリは兄上になりきって踊るんだとか言ってたな」
ユウは少し緊張しながらアキラを見ている。
「へぇ、嬉しい事を」
アキラは本当に嬉しそうに笑った。
約1年振りの兄弟の会話を懐かしんでいる様にも見える。
かと思えば、リリーに目を向けて急に真顔になった。
「あぁ、でも良かった……他の男と踊ってたら、相手をどうにかしてたかもしれない」
急に冷めた顔で物騒なことを言うアキラに、ユウは動揺して言葉が出ない。
そんなユウに気付いて、アキラは寂しそうに笑った。
「お前もリリも元気そうだし、満足!!」
「待て!!!!」
アキラが溜息をついた。瞬間移動が出来ないらしい。
「……何で去ったらダメなんだ」
「待ってくれ。兄上、今から少しだけ時間あるか?」
リリーがユウのいる貴賓席を見上げて、両手を振っている。
手を振り返しながら、ユウは距離があって良かったと心底思った。
きっと動揺を抑えきれていないはずだ。
ユウの手が震えている。




