77…約束のお出掛け
「よっし! リリーの背を抜いた!!」
タイムが大喜びしている。
今はリリーとタイムの身長を測っているところだ。オウカ公爵もタツァックも先程見に来た。
「最近、リリーが俺を見上げてる気がするって思ってたんだ!」
リリーは165センチから伸びていないのだが、タイムはこの度167センチになった。
「リリー、今から街にデート行こう!!」
冷ややかな目をしたオウカ公爵がタイムの前にヌッと出てきた。
「何言ってるんだい……」
「だって伯父上! リリーと約束してたんですって」
ね、とリリーの方を向いた。
リリーはふわっと笑っている。
「そうね、背がタイムの方が高くなったらオウカの街を一緒に見に行きましょうって。でも今日は皇城に行かなきゃ……明日はどう?」
「じゃあ、明日で!!」
タイムは綺麗にお辞儀して、リリーに手を振ってにこにこで部屋を後にした。
「リリ、お兄様も行っては……」
「ダメです。お兄様が来たら目立ってしまいます。お仕事なさって下さいね。お土産を買ってきますから」
タツァックはしょんぼりと肩を落とした。
リリーとタイムだけでも十分に目立つのに、と。
◇
今日は市井へ行くので、リリーもタイムも商家の娘や息子の格好をしている。
春が終わりかけ、太陽がキラキラと輝いている。絶好のお出かけ日和だ。
「リリー、その格好も可愛いな!! 行こう」
タイムはリリーと手を繋いで馬車に乗り込もうとしたが、オウカ公爵の視線に気付いて、エスコートに直した。
馬車に対面に座り、手を振って、オウカ公爵が見えなくなってから、リリーの隣に座り直し、タイムはリリーと手を繋いだ。
「最初はどこに行こうかしら?」
「今日は市場が出てるんだろ? そこに行ってみたい! 街の様子は市場でよく分かるって父上が」
2人はまず市場に行って、オウカ公爵ご指名のお店で昼食をとって、お店巡りをすることにした。
「ダンスパーティーの相手、俺は?」
タイムはリリーの手を離さないまま、リリーの方へ向いて話始めた。
今日も離してもらえないんだろうなとリリーは諦めてタイムの方を向いている。
「背は抜かされたけど、もう少しね! もしタイムが出たければ来年出ましょう?」
「はぁ、母上、俺をもっと早く生んでくれてたら良かったのに。せめてリリーと2才差が良かった」
タイムは溜息をついた。
最近タイムがリリーの事を考えると、絶対にそこに行き着いてしまい、13才のタイムはイライラしてしまう。
「私も自分ではどうにもならない事で悩んだりしたわ。今も時々しちゃうけど」
「リリーも??」
困り顔になったリリーが、頷きながらタイムを見た。
「何度も何度も悩んでも答えが出ないものは、今の自分では答えを出せる内容ではない事が多い気がするの」
リリーはタイムの方にある馬車の窓に目を向けて話始めた。
「だから、どうしても答えが出ないものは私は後回しにするの。それでね、今もっと考えるべき事を考えたりするのよ。そうすれば、きっと忘れた頃に答えが出るわ」
まるで自分に言い聞かせるかの様にリリーは話をしてタイムに伝えた。
きっとアキラさんの事を言っているんだろう……
タイムは今リリーの一番近くに居るのに、リリーがアキラの事を考えているのが悔しくなった。
リリーはまだタイム側の窓を見ている。
タイムはリリーの視界を遮ろうと顔を覗き込んで、そのままリリーの口にキスをした。
驚いたリリーは動けずにいると、馬車が止まった。
「驚いて他のこと考えずに済んだだろ?」
タイムはパクツそっくりな悪戯っ子の様な笑い方をして立ち上がった。勿論手は繋いだまま。
「行こう! 初デートだ!!」
まだ驚いていてデートという言葉を綺麗に聞き流したリリーは、自分よりも背が高くなって頼もしいタイムの背中を見ながら、手を引かれるまま歩き始めた。
オウカの街を見てみたいと言ってくれた、タイムの案内役をしなくてはならないと自分に言い聞かせながら。
……どうしよう、隙があったのかしら。ユウに言わなきゃ、ダメよね。でも、どうやって。どうしよう。
流石に手洗いにまで付いて行けないタイムが1人で出店を見ながら待っていると、数ヶ月前まで毎日のように聞いていた声に呼ばれた。
「……タイム」
「アキラさん?! 何怒ってんすか。また魔剣すか? とりあえずストーカー認定しますよ」
「お前ね、何でそんなズカズカと。俺だって嫌なんだよ! 魔剣の所為で気になって居ても立っても居られなくなるのが!! ああ、そんなことより、変なことすんなよ?! 釘を刺しに来ただけだ。あと……」
「あーもう遅いすね! 俺はヘタレじゃないんで!」
タイムは悪戯っ子の様に笑っている。
「何やったんだよ?!」
「言うわけないでしょ。あ、リリーだ」
アキラはギョッとして振り返ったが……リリーは来ていない。
「あはははは!!」
タイムは腹を抱えて笑っている。
タイムと居ると調子を狂わされるのを、アキラは久しぶりに味わっている。
こんなことしてくる人間は皇城にまず居なかった。可愛いような、腹が立つような。
アキラは気が抜けて、図らずも魔剣の引きずりも楽になってきた。
1つ溜息をついて、アキラは消えた。
◇
「あ!」
ウィステリア候爵邸に戻って、ソファに座ったアキラはタイムに聞きたかった事を思い出した。
リリーはダンスを誰と踊るのか。




