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70…リリーの寝相

ゴンッ


「いって……」


 折角気持ち良く眠っていたのに、何かで頭を打たれた。

 起きて確認すると、ユウの頭だった。


「柔らかそうに見えて石頭なんだよ、なっ」


 勢いをつけてユウの頭を少し向こうへ追いやると、次は足元に何か乗ってきたことに気付いた。

 リリーの頭だった。


「もぅすこしぉかわりくらさぃ……」


「ぶはっっ!! リリ、夢で何食べてるんだ? ふっ……くそっ面白いな……それより、お前達どうやったらここに頭がくるんだよ」


 アキラは頭を掻きながら、理解できないといった感じでリリーとユウを見ている。



 今日は皇城にリリーを迎えてアキラとユウと一緒にお泊りをする日だ。

 皆で楽しみにしていたのだが、下の2人が自由奔放な寝相のため、アキラが大変な目に遭っている。


 ユウ、リリー、アキラの順で川の字で手を繋いで寝たはずだった。

 確かにアキラは端に寝ていたのに。


 きっと最初にリリーが足元の方へ移動し、空いたスペースをユウが移動して来たのだろう。


 真っ直ぐ寝ていた寝相の良いアキラを、上から下から頭で攻めてくる構図が出来上がってしまったようだ。


 そんな経験は9才のアキラには荷が重かったらしい。

 皇城のてっぺんから誰も落ちなかったのは奇跡だったのかもしれないと気付いた日。


 その日から、アキラは皆で寝たいと一言も言わなくなったとか。




「ははっ。リリも寝相が良くなったよな」


 アキラがリリーの部屋へ現れて、静かに眠っているリリーの寝顔を見ている。


 魔剣の気に引っ張られていない時に限定して、アキラは時々リリーの寝顔を見にやって来る。


 起きていると先日の様になってしまうかもしれないので、アキラは避けていた。

 今の自分に自制は無理だ、リリーの害になってしまう。

リリーを傷付けてしまうなら、会わない方が良い、と。


 アキラは真黒なイヤリングをポケットに入れた。


チッ


 聞こえるはずのない魔剣の舌打ちが聞こえるような気がした。



「ほぼ毎日会ってたのになぁ」


 リリーの枕元に座って、アキラは溜息をついた。


「リリ、文化祭楽しそうだったな。俺も一緒に祝いたかった……」


 アキラは諦めたような顔をして、髪をなでている。


「おめでとう、リリ。あとは……バザーの刺繍か。ははっ、想像つかないな! リリの刺繍とか」


 アキラは悲しそうに自分が付けてしまったリリーの唇の傷を触った。

 もう傷がほぼ見えなくなっている。

 それを寂しく思えてしまう自分は、やっぱり魔剣の所為で可怪しくなっているとアキラは自嘲する。




ガバッ


「うおっ」


 突然リリーが、座っているアキラに抱きついてきた。しかも、魔力を込めているので、ちょっとやそっとでは離せない。


「寝相良くなってるとか誰が言った?! 全然じゃないかっ。いやいや、寝ながら魔力使うってどういう……リリ、ちょっ待てっ」


「ょいっしょ」


ドサッ


 リリーはアキラを抱きしめたまま反対へ寝返りをうったので、アキラはそのまま持ち上げられベッドに寝かされてしまった。


 図らずも2人で寝ている形になってしまった……しかもアキラはリリーに抱きつかれている。


 魔剣の所為で欲には従順になってはいるが、受け身には免疫が無いという部分は変わらないらしいアキラはフリーズしている。


「リリ……?!」


「ししゅうは、がんばるの」


「へ?! あ、ごめんごめん、バカにしてないから! 刺繍頑張れよ?! え、起きてないか?!」


 リリーはとんどん手に魔力を込めているので、アキラは全く動けない。


 本当に、寝てるのか?!


 アキラは、リリーに騙されているような気がしてならない。


 アキラは思い切ってリリーの口にキスしてみた。


「んん……」


 リリーは口に付いて離れない何かを取ろうと、アキラをホールドしていた手を解いた。


「よし!!」


 すかさずアキラは跳ね上がって、ベッドから降りて服を整えた。


「あ、明日は公務があるんだ。リリ、またな」


 タイムに話したら呆れるだろうな……


 少し顔の赤いアキラは、顔を隠しながら消えていった。



 リリーは静かに寝息をたてている。


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