69…文化祭⑤授賞式
ジュンがカチコチになって舞台上を歩いている。
何故こんなことに……
時折、客席からクスクス笑い声が聞こえる。
先程もジュンは舞台を歩いたのだが、その時は右手と右足が一緒に出ているのを舞台上に席がある生徒会メンバー達に指摘された。
チームとして参加しているリリーとカヨは客席から見ている。
ジュンは、穴があればとかそんな悠長な事を言っていられない、穴を掘ってでも穴に入りたい……と初めて思ったとか。
そんなジュンに、生徒会メンバーは今はそれはそれは温かい眼差しを向けている。まるで自分達の弟が表彰されるかの様な、誇らしい気持ちで。
「特別賞、ジュン・ウィン・キャメリ」
毎年あるとは限らない特別賞を受取りに、もう上がることはないと安心しきっていたジュンが早々に2回目の舞台上を経験している。
こんなはずではなかったと、顔に書いてあるようだ。
ちなみに、昔受賞したことのあるキョウヤ・カノ・オウカは、早々に帰宅して学園内におらず場内を騒然とさせた人物だ。
今はリリーの優勝を見届けた後もご機嫌で場内に残っているのだが。
特別賞は何故か喋る必要があるらしく、マイクを渡された。
まじか……
しかし挨拶のテンプレは覚えているので、ジュンはこれなら大丈夫そうだと安心した。
「……この様な栄誉ある賞を頂くことができ、大変光栄に思います」
すると緊張が緩んできたのか、言いたい事がまとまってきたらしく、ジュンは前を向いた。
「正直なところ、私のような未熟な者が栄えある表彰を受けるなど全く想定していませんでした。今回、多くの先輩後輩方が一生懸命に努力されている姿を見て大変刺激を受けました」
ジュンは、客席に座っているリリーとカヨの方に向き直した。
「賞はたまたま私が頂くことが出来ましたが、これは本当に周りの人達に助けてもらえたからだと思っています。チームに誘って下さったリリー様とカヨ様をはじめ、生徒会メンバーに感謝の意を表する事で挨拶とさせて頂きます」
「まぁさっきの歩き方は面白かったけど、うん、やっぱり度胸もあって言うべき事を言えるし、あの子は良いね」
オウカ公爵は拍手をしながらタツァックに話かけている。つまりは、贔屓先にしろということだ。
タツァックも頷いている。
「そうですね。あの年で立場もわきまえているし、上位貴族でもないのに壇上でここまで上手く挨拶が出来るのは、なかなかいない。上出来ですね」
当の本人はこんなに褒められているとは微塵も思わず、またカチコチになりながら舞台上を歩いて戻っている。
リリーとカヨは自分達の名前が出て驚いたけれど、お互いの手を合わせて喜んでいる。
「私……カヨのお友だちになれてる?」
「それは、とっても嬉しいお言葉です」
リリーはしゅんとしてカヨを上目で見た。
「敬語は寂しいのだけど。それと私のことは……」
カヨはにっこり笑ってリリーの手を取った。
「……リリーよね」
「カヨ! ありがとう!!」
リリーとカヨは額を近付けて笑い合った。
ユウは貴賓席から拍手をしている。
リリーを見ながら、嬉しいような寂しいような、でもやっぱり嬉しいが勝つなぁ流石リリだと、感嘆の溜息をついて眺めていた。
惚れ直すとは、こういうことなんだろうと。
自分の側でだけ笑っているリリーも好きだけど、他者と笑い合っているリリーを見るも好きだとユウは思う。
すると、リリーが笑顔でユウの方を向いて手を振ってきた。
ユウは軽く手を上げて嬉しそうに応えた。
リリーが他の者と笑い合っている時に、ユウを思い出して笑顔で手を振ってくれるのが、もしかしたら一番嬉しいかもしれないと感じながら。
リリーは今日の事が全て本当に本当に嬉しくて、とても満たされた気持ちでベッドに入った。
いつか、アキラにも聞いてもらいたいと思いながら。
「聞いてもらいたいことが、増えていくばかりだわ……早く会いたい」
すぐにリリーの寝息が聞こえてきた。
部屋にトロフィーが誇らしそうに2個並んでいる。
リリーは文化祭で、トロフィーと生涯付き合うことになる友だちをゲットした!!




