65…文化祭①お忍びで散策
「市井では今はコレが流行っているのね」
箱を開けると音楽が流てくるオルゴールをジュンが眺めていると、リリーがひょこっと近くに見に来た。
近っっ
ジュンは突然くっつくように現れたリリーに緊張するしかない。
リリーはずっと近しい人達に囲まれて生きてきたので、少し距離感がおかしいのだ。
「そ、そうみたいですね?!」
この距離を皇子達になんぞ見られたものなら消されてしまうと冷や汗をかきながら、ジリジリ距離を取った。
ジュンは自分の命とお金を大切にしている16才男子だ。
オルゴールは、貴族の間では5年ほど前に流行った。
この国の流行は、先ずは貴族から流行り、それが数年後に市井へと流れていく。
今リリーは、カヨとジュンと一緒に商家の子ども達の格好をして下町を散策に来ている。
どう見ても商家の子に見えないけど……とジュンとカヨはリリーを見た時に思ったが、本人がそれはそれは嬉しそうにしているので言葉を飲み込んだ。
護衛はこっそりといるのだが、特に出番がなさそうなくらい、今はとても穏やかだ。
「これをアレンジしてみる?」
リリー達は色々巡ってみたのだが、どうしてもオルゴールの前で立ち止まってしまう。
「そうですね。もうこれは、オルゴールにしなさいってことですね。でも、このままだと貴族にはウケません。数年前に流行った物ですから」
ジュンは祖父が営むキャメリ商会でも、数年前に取り扱っていたのを覚えている。今ではまったくと言って良いほど見かけなくなった。
「音が綺麗なのにね……平民向けと貴族向けとを作っても良いですね。オルゴールにしましょう」
カヨが言いながらオルゴールを触っている。
リリーも笑顔で頷きながら、一緒に見ている。
「そうですね、貴族向けと金持ち貴族対象の物も作っても良いかもしれないですね……」
ジュンはそう言いながら、これが噂に聞く社交界の華かと自分の前にいるリリーを眺めていた。
手の届かない、高嶺の花が目の前にあるのが不思議でたまらない。
学園の文化祭の日は、身分関係なく自由に学園内に出入りすることが出来る。
メインは出店で、貴族にとっては経営の勉強、平民にとっては雇用されるための練習といった、それぞれ大人になった際に役立つ経験を積める場となる。
集大成のような位置付けなので、開催が四大大会の中でも年度の最後に催されるのだ。
ここで成功した貴族達は内外から注目を浴びることが出来て、平民に至っては貴族や大きな店舗から声がかかってくることもあり、皆それなりに必死だ。
出店についての縛りは"20センチ四方に納まる物"以外は何もないし、お金をかければ良いというわけでもないので、注目を浴びるかどうかは貴族のアイデア勝負な部分もある。
なのでアイデアを拾いに散策に来たのだが、ジュンはこれは現実なんだろうかとリリーを見るたびに疑ってしまう。社交界の華は、遠い遠い存在だったから。
「あら、ユウだわ!」
リリーを心配してお忍びの格好で現れたユウにすぐ気付いて、リリーは手を振った。
挨拶しようとした2人を手で制止して、ユウは首を振った。
「突然すまない。挨拶は良い」
「そろそろかと……迎えに来てみたんだが。もし終わっていたら、少し時間があるから散歩して帰るか?」
リリーは突然のお誘いに目を輝かせた。
「本当??」
「もう終わりですし、ここで解散にしましょうか。またプランを練りましょう」
カヨがそう言っている時、ジュンはこっそりユウに近寄った。
「大丈夫です。何もありませんでした。私は勿論、その辺りの男達にも言い寄られることもなく。きっと護衛の方々が守られていたんでしょう」
同回生のジュンにお見通しにされていたのが少し恥ずかしくなってきて、ユウは自分の顔が赤くなっているのが分かった。
少し手を上げて顔を隠すかのようにして、ユウは何とか返事をした。
「ああ……助かった」
ジュンは、何だかユウが普通の同じ年の男に見えてきた。
皇太子殿下は何処からどう見ても完璧な王子様なのに、リリー様のこととなると余裕がない姿が見られのか。
完璧に見える皇太子も、自分達と同じヒトであると実感して、何だかとても身近に感じたジュンはフッと笑って自然と言葉が出てしまった。
「殿下でも、リリー様がお相手だと大変なんですね」
しまったと慌てているジュンを見て、ユウは吹き出してしまった。
「ふっ……はは!! そう、気が気じゃないんだ。昔から全然余裕なんて持てない」
そうかなぁ?? 僕らから見たらリリー様は殿下をかなり特別扱いをしていると思うけれど……うん、やっぱり皇太子殿下も10代の男子なんだ。
ということはリリーも同様になると頭を過ったのだが、それは本当にイメージ出来ないとジュンは首を左右に振った。
ユウとリリーが手を繋いで遠くなっていく姿を、カヨとジュンが見送っている。
今日の2人の服装は自分達とそう変わらないのに、何だか違う世界の物語の中を見ているような感覚に包まれながら。




