41…アキラは何処へ
何も無い田舎道を馬車が通っている。
とても格式高く、乗っているのが高貴な貴族であることがわかる。
突然、その馬車が止まって中から人が出てきた。
何やら慌ただしくなっている。
「この方は……第一皇子殿下? 馬車へお乗せしろ。何故ここに……おい、早馬を。医者を呼んでおけ」
立派なお屋敷で医者が言うには、悪いところは見当たらないが意識がなく、目を覚ますのを待つしかない状態だという。
回復魔法と保護魔法をかけ続け、目覚めるのを待つことにした。
到着後も、まだ従者達がバタバタしている。
「ああ、あれはそのまま私の元へ連れて来ないで良い。不自由無く適当にもてなしておけ」
執務室のソファにドカッと座った。
「はぁ……お客様が多いことだ」
学園で教室移動をして歩いているリリーの元に、ユウが走って何かを伝えに来た。
リリーの腕を持っているユウの手が、少し震えている。
「アキラが見つかったの?!」
最後に会ったのがリリーだったので、リリーはとにかく心配で心配でどうにかなりそうだった。
いつ帰ってくるかわからないアキラを待つことは、リリーもユウも経験したことがなく、精神はかなり不安定になっていた。
公表もしていないため、普通に日常を送らなければならないのも辛かった。
知らせを聞いたユウは、とにかく早く知らせたいと急いで来たのだ。
外では小雨が降っていて、ユウは少し濡れている。学園内は濡れないので、何処かで従者に傘をささせず急いで来てくれたのだろうとリリーは思った。
リリーはユウに正面から寄り掛かって、次から次へと流れてくる涙を隠した。
涙がなかなか止まらず激しくなる一方なので、授業は無理だと判断したユウがリリーの学友たちに挨拶を済ませて、リリーを抱きかかえながら馬車へ向かった。
”先ほど道中に倒れていた第一皇子を発見、保護し医者に診せたところ、衰弱しているため目が覚めるまで回復魔法と保護魔法をかけ続ける必要があるとのこと。護衛しながら回復を待つ。”
という連絡が皇城に入ってきたのだ。
アキラが姿を消して三日後の今日。
コガヤ公爵家からだった。
「何故そんな遠くに。早馬でも2日かかる場所なのに……」
よりによってコガヤ公爵家だ。
「……」
皇帝やユウが話をしている中、オウカ公爵は一人で険しい顔をして考え込んでいた。
マリルが部屋の隅で、スモス子爵が持ってきた宝石を手にブツブツ呟いている。
「こんなンじゃ、足りナい……もッと、もっト、何もカもが欲シい」
抱えている黒い剣が、刻一刻と黒く、深く、禍々しくなっている。
「あれは大人しくしているか? 完全に取り込まれると、それはそれで手を付けられず厄介だ。どの道、皇城へ行くだろうが……」
コガヤ公爵がスモス子爵と執務室で話をしている。
「どんどん独り言が多くなっております。最初にセイチの絶望を吸った後は、一気に禍々しい漆黒になりました。公爵様の仰った通りでした」
スモス子爵は、息子の恋を応援する振りをして、計画的に息子のセイチを絶望させたようだ。
あの時のために。
「ああ、そうだろう。莫大な魔力を持つ女と同年の、市井出身の貴族令嬢が、スモス子爵領地の特別な魔宝石で喚び起こし、絶望の感情を吸わせる……」
コガヤ公爵は、自分の執務室に並ぶ大きな宝石たちを見ている。
魔宝石かどうかは調べなければわからないので、それらしい物を全て手に入れてきた。
「それが魔剣が目覚める条件だ。この条件が揃うまで、我が公爵家は誓約をせず引継ぎ、代々計画を練り直しながら百年以上待った」
オウカ公爵が知ったらブチ切れそうな発言があったが、コガヤ公爵家たる者達が百年以上も前から入念に計画をして、待ちに待った事態であることがわかる。
こんな条件を満たす機会など、ないとコガヤ公爵は思っていた。
上手くいけばラッキーだと思っていた程度に蒔いた種が、こうも順調に、市井出身の公爵令嬢が出来上がるとは思ってもいなかった。
「もう少しで、皇城へ向かっても良い頃だ。魔剣は皇城に何かしらの恨みがあるらしい……そこで一暴れしてもらえれば、それで良い」
コガヤ公爵は顔色を変えることなく淡々と言葉を続けた。




