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目覚め①

 郁人はゆっくりと目を開けた。

 朝か昼間なのかは分からない。

 窓から入る日差しが眩しすぎて、目が覚めてしまったのだ。


「んー、まだ眠いな」


 脳がまだ眠いという指示を出していたため、郁人はもう一度寝ることにした。

 体勢を変え、うつ伏せになろうとした時、「昨日は何をしたっけ?」と疑問に思い、あの日のことを思い出す。

 鬼と戦い、三人に酷いお願いをしたことを――。

 郁人は「まだ眠い」と言っている場合ではないと気付き、飛び起きる。


「あれから何日経ったんだ!?」


 さっきまで、あれほど睡眠を要求していた頭は意外なほど冴え始めた。

 辺りを確認してみると、この部屋を一度だけ見た事がある。

 この世界に来て、二日目に止まった部屋だったからだ。

 そして郁人の周りにはいつものように三人が寝ていた。

 スヤスヤと気持ちよさそうな寝顔の子供姿の三人が――。


「なんで子供になってんだよ! いや、メアリーは最初から子供体型だったか……」


 動揺してしまい、思わず郁人は大きな声を出してしまったが、三人とも起きる気配はない。

 寝息を一定のリズムで立てていることから、熟睡していることが分かる。しかも、今の容姿にふさわしく、三人の腕の中には人形が抱かれていた。

 その人形は、これから住む家を紹介してもらった時に、燐とエイミーが話しかけていた人形である。


「……俺の人形? いや、気のせいか?」


 間近で見ると、その人形が自分に似ているような気がした。

 所詮、人形なので自分に似ている人形を探せば、三体ぐらいはもしかしたら存在するかもしれない。

 その人形の服装が、普段自分が着ている服装と似ていることに気付いてしまったため、郁人はそう思ってしまったのだ。


「うん、なんか俺が大事にされているから気にしないことにしよう」


 三人の事なので尋ねたら素直に答えてくれることは分かる。しかし、無理矢理起こしてまで尋ねる事ではないので、郁人はその疑問を頭の端に追いやった。

 その時、タイミング見計らったかのようにドアをノックされる音が耳に入り、


「はーい」


 郁人は遺伝子の中に刷り込まれている返事を躊躇わずしてしまう。

 郁人が今まで寝込んでいたことを思い出す前に扉は勢いよく開き、小十郎が慌てた様子で中に入ってくる。

 その顔は郁人の予想通り驚いた顔をしていたが、大丈夫そうなのを確認するといつもの余裕のある顔に戻る。

 今までは手ぶらだった小十郎の手には珍しく刀が握られていた。


「やっと目が覚めたか」

「何日ぐらい寝てた?」

「三日だな」

「そんなにも寝てたんだ……」

「そこにいる三人に感謝しとけよ?」


 小十郎はベッドに近くに置いてある椅子に座りながら、三人を指差す。

 

「色々と感謝しないといけないことはあると思うけど、これの原因は?」

「その人形を媒介にして、郁人の中から鬼の精神を引き抜く時に一緒に出た郁人の精神を三人で補ったせいだ。服だけは着替えて、そのままその行動に移って、精神エネルギーが足りなくなったから、自分の身体を犠牲にしたんだろうな」

「無茶するなって言っとけば良かった」


 郁人の心に罪悪感が生まれた。

 この三人なら、これぐらいのことならやりかねないという考えを忘れていたからだ。

 そしてあの時の言葉――燐の言葉を思い出す。

 鬼を抜き取ることに覚悟を決めていたように、三人も自分を救うことに覚悟を決めていたことを、今頃になって、郁人は気付いてしまった。


「一人ならもしかしたら消滅んでたかもしれないが、三人だから身体が退化だけで済んだんだ。今まで以上に郁人は頭が上がらなくなるな」

「閻魔様の言うとおりだ。ったく、この三人は無茶ばかりすんだからさ」

「まるで保護者になった気分を味わえるだろう?」

「中学生の俺に母性も父性もあまり分からないよ。どっちかって言うと、兄の気持ち?」

「騒がしい妹たちだな」

「保護者は閻魔様だから」

「放任主義だから、期待するな」

「おい!」


 二人は楽しそうに笑っていた。

 やっと平和になったという実感が湧いたからなのかもしれない。


「そうそう、何個か質問したいんだけどいい?」

「なんだ?」

「三人はいつ目が覚めるんだ?」

「郁人が目を覚ましたし、もうすぐ目が覚めるんじゃないか?」

「なら、良かった。俺が目を覚ましたのに三人が目を覚まさなきゃ意味がないし」

「そうだな」

「俺を助けるのに、なんでこの人形を使ったんだ?」


 郁人はエイミーが持っている人形を奪おうとしたが、力いっぱいに握り締めているらしく、奪い取れそうにない。

 そのため奪い取ることは諦める。


「もう気付いていると思うが、それお前を基にして作った人形だからな」

「やっぱりか。なんで俺の人形を持ってるんだ? 家にも置いてあったけどさ」

「俺があげたんだ。前世の記憶を三人に戻す予定がなかったから、その代わりにな。えらく気に入ってたぞ?」

「へー。その割には初めての自己紹介のときは冷たかったような……」


 あの時の三人には偉く冷たくされていたようなことを思い出す。

 燐の自己紹介にいたっては、あからさまに自分のことを嫌いのような発言もされていたにも関わらず、この人形を持っている意味が郁人には分からなかった。


「あれはな。こいつらも人間の扱いに困ってたんだろ。一時的な人見知りだ。今じゃ、そんな様子、全然ないだろ?」

「全然というか、前世の記憶を取り戻してからは甘々なんだけど……?」

「まさにハーレムだな。この幸せ者め!」

「違う意味で幸せじゃない」


 小十郎が羨ましそうに見つめきたので、郁人は冷たい視線で見つめ返した。

 楽しいことは楽しいのだが、いろんな意味で騒々しくて余計に疲れる。

 きっと小十郎はそのことを分かっていないから、そんなことが言えるのだと郁人は思う。

 この三人が元側近だとしても恋愛感情はない付き人、そこまで苦労はしていないはずだから。


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