01
※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。
イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは
作中の描写と多少異なる場合があります。
あらかじめご了承ください。
アルヴィレア大陸西部。
ヴァルセイン王国の辺境、リュゼル辺境領には、古くから多くの冒険者が足を踏み入れるミレノアの森が広がっている。
魔物が跋扈し、希少な薬草や魔石を求める冒険者たちが行き交うこの森の北縁には、かつて石材の採掘で栄えた旧採石場があった。
今では採掘の営みも途絶え、崩れかけた岩棚と雑草に埋もれた古い道だけが、かつて人の手が入った痕跡を残している。
その岩棚の一角に、新たな洞窟が口を開けていた。
まだ誰にも発見されていない、小さなダンジョンの入口である。
入口から続く洞窟と、その奥の連絡通路。
そして最深部には、迷宮の心臓部となるコア部屋が存在していた。
そこには魔物も、罠も、財宝もない。
ただ一つ、青白い光を宿す水晶が静かに浮かんでいた。
――そして、その水晶の傍らで、一人の人間が目を覚ました。
◇ ◇ ◇
気がつくと、俺は見知らぬ洞窟の中にいた。
「……ここは?」
薄暗い空間に、剥き出しの岩肌が広がっている。
天井は高く、周囲を囲む岩壁には人の手が加えられたような跡も見受けられた。
ひんやりとした空気が肌に触れる。
いったい、何がどうなっているのだろう。
「……俺、夜勤明けで家で寝てたはずなんだが……」
確かに帰宅した記憶はある。仕事を終え、飯を食べ、風呂に入って寝てたはず……
そこまでは間違いない。
それなのに、目が覚めたら洞窟の中とは。
夢でも見ているのだろうか?
――ズキンッ!
「うぐっ……!」
突然、頭の奥に鋭い痛みが走った。
思わず顔をしかめる。まるで頭の中を直接かき回されているような、奇妙な頭痛だった。
「くっ……なんだよ、これ……」
痛みを堪えながら周囲を見渡すと、部屋の中央付近に奇妙なものが浮かんでいることに気づいた。
水晶だ。
直径四十センチほどもある大きな多面体の水晶が、青白い光を放ちながら宙に浮いている。
その周囲では銀色の環がゆっくりと回転していた。
明らかに、この洞窟には不釣り合いな存在だった。
しかし、不思議なことに、俺はその水晶が何なのかを知っていた。
「あぁ……ダンジョンコア……」
口にした瞬間、頭の中に見知らぬ知識が次々と浮かび上がってきた。
ダンジョン。
魔物の召喚。
迷宮の構築と管理。
魔力を吸収し、ダンジョンポイントへ変換するコアの機能。
そして――ダンジョンマスター。
どうやら、この水晶が俺を呼び出したらしい。
「…………」
いや、ちょっと待て。
ダンジョンコア?
ダンジョンマスター?
つまり、あれか?
俺は異世界に召喚されたということなのか?
あまりにも突拍子のない話だったが、目の前に浮かぶ水晶を見れば、簡単に否定することもできなかった。
俺は考えるのをやめ、その場に仰向けになった。
背中に伝わる硬い岩盤の感触。
目の前には、自宅の見慣れた天井ではなく、無骨な岩の天井が広がっている。
「……ダンジョンコア、か……」
ぽつりと呟いた。
ここが本当に異世界なら、俺の知っている常識はどこまで通用するのだろう。
剣と魔法の世界なのか。
それとも、まったく想像もつかない世界なのか。
そもそも、どうして俺が選ばれた?
「……異世界召喚……」
小説やゲームではお馴染みの展開だ。
しかも、ただの異世界人ではなく、ダンジョンマスターという特殊な立場まで与えられている。
好きなように迷宮を作り、魔物を従え、自分だけのダンジョンを育てていく。
そんな物語を想像するだけなら、確かに楽しそうだ。
なのに――。
「……なんだろうな……嬉しいはずなのに……ちっとも嬉しくないのは……」
別に、元の世界で何か特別なことがあったわけではない。
ただ夜勤を終えて、家に帰って、眠っただけ。
それがどうして、こんなことになっているのだろう。
「……アハッ……」
思わず笑いがこぼれた。
「アハハハハハッ!」
自分でも、おかしくなってきた。
夜勤明けに異世界召喚。
目覚めた場所は洞窟で、目の前にはダンジョンコア。
そして俺は、ダンジョンマスター。
「……ハハハ……」
笑うしかなかった。
冷たい岩盤に寝転がったまま、俺はしばらく天井を見上げていた。
乾いた笑い声が、静かな洞窟に虚しく響く。
その様子を、宙に浮かぶ水晶がじっと見つめていた。
もっとも、水晶に目などないのだが。
やがて、青白い光が小さく明滅する。
『……マスター?』
遠慮がちに声が響いた。
『……大丈夫、ですか?』
その声は、妙に幼かった。
原初のダンジョンコア。
迷宮の管理機能を持ちながら、その知性はまだ生まれたばかりの赤子に近い。
そんなことまで、頭に流れ込んできた知識の中にあった。
青白い水晶は静かに浮かび続けていた。
しばらく天井を見つめていた俺は、ふと思った疑問を口にした。
「それで……俺はいったい何をすればいいんだ?」
コア室の中央には、青白い光を宿した巨大な水晶が静止している。
「いや……迷宮の拡張はわかるんだが……目的? そんなのは無いのか?」
ダンジョンマスターとして召喚されたことは理解した。
迷宮を作り、魔物を召喚し、ダンジョンを成長させる。
それが俺に与えられた役割なのだろう。
だが、何のために?
「例えば……勇者を倒せとか、魔王を倒せとか……」
異世界召喚といえば、何かしらの使命を与えられるのが定番だ。
魔王討伐だったり、世界を救うためだったり。
あるいは、その逆で勇者を倒すためだったり。
しかし、俺の頭に流れ込んできた知識には、そういった目的が一切なかった。
やがて、コアから声が響いた。
『……勇者。魔王……』
聞き慣れない言葉を確かめるように、コアは二つの単語を繰り返した。
『わかりません、マスター』
「…………」
『私の役目は、迷宮を守ること。迷宮を大きくして、強くすることです』
幼さの残る声は、淡々と説明を続ける。
『そのために、マスターを召喚しました』
どうやら、コアにとってはそれが当然のことらしい。
『勇者や魔王を倒す命令は、ありません』
『……マスター』
青白い光が岩壁を淡く照らす。
『何を目指すかは、マスターが決めます。私は、そのお手伝いをします』
それは、随分と単純な答えだった。
世界を救えとも、魔王を倒せとも言われない。
ただ、ダンジョンを管理するために呼び出された。
そして、その先に何を求めるかは、すべて俺次第だという。
少なくとも、この生まれたばかりのダンジョンコアは、そう考えているらしかった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。
物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、
あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。
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