日陰を歩く家族と、決して果たされない約束
テレビの画面の中で、色鮮やかな光が弾けた。
『本日未明、都内の銀行に立てこもった強盗犯を、光の魔法少女・ヒカリちゃんが見事制圧しました!』
ニュースキャスターの興奮した声と共に、画面の向こうでアイドルとしても活躍する魔法少女がカメラに向かって愛らしくウインクをしている。
「わあ……やっぱりヒカリちゃん、可愛いなぁ」
隣でテレビを見ていた妹のサヤが、目を輝かせながら呟いた。
この世界には、生まれながらに特殊な力に目覚めた「魔法少女」と呼ばれる存在がいる。政府からライセンスを与えられ、スポンサー企業のバックアップを受けて、キラキラとした衣装で悪を討つ。彼女たちは、誰もが憧れるヒーローであり、時代の寵児だ。
『ヒカリちゃん、本日はありがとうございました! さて、続いてのゲストは、魔法少女の支援法案を強力に推し進める、次期総理の呼び声も高い徳頭官房長官です』
テレビの画面が切り替わり、仕立ての良いスーツを着た初老の男が、温和な笑みを浮かべて画面に映し出された。
「……政治のニュースなんて、つまんない。サヤ、チャンネル変えていい?」
「えー、あともうちょっとだけヒカリちゃんのコーナーあるかもしれないじゃん!」
私は興味をなくしてテレビから目を逸らしたが、サヤは食い入るように画面を見つめ続けていた。
もちろん、私だって幼い頃はあの眩しさに憧れた時期があった。けれど、今はもうとうの昔に諦めている。
私たち栗林家は、代々続く「忍び」の家系だからだ。
煌びやかな魔法少女とは正反対だ。誰にも知られず、影から影へと渡り歩き、政府から依頼される裏の仕事をこなすのが私たちの生業である。
魔法少女が表舞台で光り輝けるのは、私たちが裏で泥を被り、国を支えているから。私は、そんな日陰の裏方という役割を受け入れ、誇りにすら思っていた。
「ほらサヤ、テレビばっかり見てないで修行に戻るよ」
「はーい!」
私たちは庭に出て、手裏剣と体術の基礎訓練を再開した。
トン、トン、と軽やかな音を立てて、サヤの放った手裏剣が次々と的の中心に吸い込まれていく。私が同じように投げても、どうしても少しだけ軸がブレて、的の端に鈍い音を立てて刺さる。
……正直、ムカつく。
妹の方が圧倒的に飲み込みが早いのだ。姉としてのプライドが少しだけ疼いて、思わず小さくため息をついた。
「あらあら、ユキは丁寧なんだから比べちゃ駄目よ」
縁側から穏やかな声が降ってきた。お盆に温かいお茶を乗せて微笑んでいるのは、母のツバキだ。湯気を立てるお茶の香りと母の優しい声を聞くと、ささくれ立っていた心がすっと落ち着いていくのが分かった。
今日は、十二月二十四日。クリスマスイブだ。
夜には優しい両親と一緒にケーキを食べて、サンタクロースからのプレゼントを開けるのが我が家の恒例行事となっている。もっとも、十三歳のサヤはもうサンタの存在なんて信じていないけれど、それでもこの温かい時間は私たちにとって特別なものだった。
「ユキ、サヤ。母さんの言う通りだ。焦ることはない」
家の中から、外出着に身を包んだ父・タツノリが歩いてきた。最近ずっと抱えていた、長期の潜入任務に向かうところらしい。
父は私の頭に大きな手をポンと乗せ、優しく撫でた。冬の冷たい空気の中で、その手はとても温かかった。
「今日で大きな仕事が終わるんだ。夜には、一番大きなクリスマスケーキを買って帰るからな」
「ほんと!? やった!」
サヤが無邪気に飛び跳ねる。私も嬉しくなって、自然と笑みがこぼれた。
「うん。気をつけてね、お父さん、お母さん」
「ああ。行ってくるよ」
母も父の隣に並び立ち、二人揃って私たちに優しく手を振って家を出て行った。
「お姉ちゃん、早く飾り付けしよ!」
「分かってるって。リースはあっちの壁にお願い」
両親を見送った後、私たちは家の中をクリスマス風に飾り付け始めた。
色とりどりのオーナメント。部屋の隅でピカピカと光るツリー。
大きくて甘いケーキと、大好きな両親の帰りを待ちわびながら、私たちは幸せな夜の準備を続ける。
——まさか、これが家族四人で過ごす最後の、甘く残酷な時間になるなんて、思いもしないまま。




