第三十二話 初めての魔法訓練
──天才錬金術師は常識を知らない
草原を吹き抜ける風が、ふわりとアルマの髪を揺らした。
フィーネは深いため息を吐きながら、改めて二人を見る。
「では、魔法訓練を始める」
アルマがぴしっと手を上げる。
「はい先生!」
「誰が先生だ」
即座に返される。
ルナがくすっと笑った。
フィーネは周囲を見渡した。
見えるのは広い草原だけ。
多少暴れても問題はない。
「まずは魔力を外へ流す感覚を覚えろ。魔法とはイメージだ。魔力を練り、形を想像し、外へ放つ」
アルマは真剣に聞いている。
「ふむふむ」
「炎なら熱、水なら流れ、風なら動き。そういった概念を魔力へ重ねるのだ」
ルナがおずおずと聞いた。
「難しそう……」
「最初は誰でもそうだ」
フィーネはそう言って、軽く指を振る。
次の瞬間、小さな炎が空中に現れた。
ふわりと揺れる赤い火。
「わぁ……!」
ルナが目を輝かせる。
アルマはさらに食いついた。
「すごい!!どうなってるの!?なんで浮いてるの!?燃料は!?」
「落ち着け」
フィーネが即座に止める。
「まずはやってみろ」
「うん!」
アルマは杖を構える。
そして目を閉じた。
「炎……炎……」
空気がわずかに震える。
フィーネの眉がぴくりと動く。
「おい、待──」
ボォォォォォォッ!!!!
次の瞬間。
巨大な火柱が草原に出現した。
熱風が周囲へ吹き荒れる。
「わぁぁぁぁ!?」
ルナが慌てて後ろへ下がる。
フィーネは即座に結界を展開した。
「馬鹿者!!最初から全力でやるな!!」
アルマは目をぱちぱちさせる。
「え?だってイメージしたら出たよ?」
「出たよ、ではない!!」
草原の一部が黒焦げになっていた。
フィーネは頭を抱える。
「なんだこの出力は……」
アルマは少ししゅんとする。
「ダメだった?」
「威力だけなら古代竜種のブレス並みだ!」
「えぇ!?」
ルナまで驚いている。
フィーネはため息を吐いた。
「まずは加減を覚えろ……」
「はーい……」
今度はルナの番だった。
「ルナ、お主もやってみろ」
「う、うん……」
ルナは恐る恐る両手を前に出す。
「光……?」
すると淡い光が手のひらに集まり、小さな光球となった。
それは優しく周囲を照らす。
フィーネが目を細める。
「ほう……」
アルマが目を輝かせた。
「きれーい!!」
ルナは少し驚いていた。
「できた……」
「初めてにしては上出来だ。しかも光属性の扱いが自然だな」
ルナは嬉しそうにはにかむ。
「えへへ……」
アルマがうずうずし始める。
「ねぇねぇ!次!次やっていい!?」
「……今度は抑えろ」
「がんばる!」
アルマは再び集中する。
今度は慎重に。
「小さい炎……小さい炎……」
ぽんっ。
小さな火の玉が現れた。
アルマは目を輝かせる。
「できた!」
「うむ、それでいい」
フィーネが頷く。
だが次の瞬間。
火の玉が突然膨れ上がった。
「わっ」
ドゴォォンッ!!
爆発。
土煙。
ルナが悲鳴を上げる。
「きゃあ!?」
フィーネは無言でアルマを見る。
アルマは顔を煤だらけにしながら笑った。
「失敗!」
「笑い事ではない!!」
草原にフィーネの怒声が響く。
しばらくして。
ようやく訓練らしい訓練が始まった。
火を小さく出す。
風を起こす。
水を生成する。
アルマは失敗しながらも、驚異的な速度で習得していく。
「なんで初日で属性変換までできるのだ……」
フィーネが呆然と呟く。
普通なら一属性の初歩だけで数ヶ月。
だがアルマは、まるで元々知っていたかのように魔法を扱っていた。
「次は風ー!」
ビュオッ!!
突風。
「次は水!」
ザバァッ!!
大量の水。
「次は雷!」
バチィィィッ!!
草原に稲妻。
「待て待て待て!!」
フィーネが止める。
「覚える速度がおかしい!!」
アルマはきょとんとした。
「そう?」
「そうだ!!」
ルナも小さく頷く。
「アルマお姉ちゃん、すごすぎる……」
アルマは少し照れたように笑う。
「えへへ」
フィーネは額を押さえる。
「これだから規格外は……」
すると突然。
ぞわり、と空気が震えた。
フィーネの表情が変わる。
「……っ」
ルナもびくりと肩を震わせる。
「な、なに?」
アルマだけが首をかしげていた。
「ん?」
地面が揺れる。
ドォン……ドォン……と重い振動。
遠くの森から、鳥たちが一斉に飛び立った。
フィーネの目が細くなる。
「……嫌な気配だ」
振動が近づいてくる。
草原の向こう。
巨大な影が姿を現した。
それは、山のようだった。
黒い外殻。
何本もの脚。
赤く光る無数の目。
そして──空気を震わせる咆哮。
「グォォォォォォォォオオオオオオッ!!!!!」
ルナの顔が青ざめる。
「お、おっきい…………」
アルマはぽかんとしていた。
「わぁ……」
フィーネが低く呟く。
「……なんだあれは」
その巨体は、明らかに普通の魔物ではなかった。
周囲の魔力が歪んでいる。
大地すら悲鳴を上げるような圧力。
フィーネは即座にアルマとルナを庇うように前へ出た。
「二人とも下がれ!!!」
だがアルマは逆に目を輝かせていた。
「すごい!!初めて見る生き物!!」
「興奮するな!!!」
その瞬間。
巨大な魔物の赤い目が、ゆっくりと三人を捉えた。
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