第三十話 帝国の影と成長の兆し
──天才錬金術師は常識を知らない
ソリティア城、王の間。
重厚な空気の中、報告は静かに続いていた。
「………………………帝国の者だと?」
玉座に座るレオニス=ヴァルディオス・ソリティアの声は低く、だが確かな圧を持っていた。
密偵は片膝をつき、頭を垂れる。
「はっ!!!間違いなく、あの赤髪の女に言われ、事実であると認めていました!!!」
「……………そうか」
王は目を細める。
「帝国、か…………」
短く吐き出されたその言葉には、わずかな緊張が混じっていた。
「用心せよ!!」
「はっ!!!!」
密偵は深く頭を下げる。
王はゆっくりと立ち上がり、窓の外を見た。
王都の灯りが広がっている。
「…………動きが早いな」
その呟きは、誰にも聞かれることなく空気に溶けた。
──場面は変わる。
王都ソリティアから少し離れた草原。
青空の下、風が草を揺らしている。
アルマたちはゆっくりと歩いていた。
フィーネがため息混じりに言う。
「お主は本当に好奇心旺盛で、よく厄介事に突っ込む……」
ルナが苦笑する。
「……ははは」
アルマは不満そうに頬を膨らませた。
「えぇ〜、そうかな〜?」
そしてふと、ルナの方を見る。
「あれ?ルナちゃん、少し大きくなった?」
「え?」
ルナは自分の体を見下ろす。
「ほんと?」
フィーネが頷く。
「吸血鬼族は成長が早いからな、その影響だろう」
「へぇ〜……」
アルマは興味深そうにルナを見る。
「すごいね!」
ルナは少し照れたように笑う。
「なんか変な感じ……」
フィーネは静かに付け加える。
「ただし、成長が早いということは、それだけ力の発現も早いということだ」
アルマが首をかしげる。
「力?」
「うむ。吸血鬼族は元々魔力が高い種族だ。ましてやこの子は“変異型”だ」
ルナが少し不安そうな顔をする。
「わたし……大丈夫かな」
アルマはすぐに言う。
「大丈夫だよ!」
迷いのない声。
「ルナちゃんはルナちゃんだし!」
ルナはその言葉に少し安心したように頷く。
「……うん」
少しの沈黙のあと、アルマがふと思い出したように言った。
「ねぇ、帝国って何?」
フィーネがちらりとアルマを見る。
「ん?帝国か」
少し間を置き、説明を始める。
「この世界──アルケイアには、現在八つの国があることは話したな」
「うん!」
アルマは元気よく頷く。
「その中の一つが、“ヴァルゼリオン帝国”だ」
風が少し強く吹く。
フィーネの声は淡々としていた。
「軍事力、魔術、情報網。そのすべてにおいて他国を上回ろうとする国家だ」
アルマは目を輝かせる。
「へぇ〜!強そう!」
「強い、ではなく“厄介”だ」
フィーネは訂正する。
「特に情報に関しては執着が強い。未知の力、新たな技術、それらを見つければ必ず手を伸ばしてくる」
アルマは少し考える。
「じゃあ、私のことも?」
「すでに目をつけられている可能性が高い」
即答だった。
ルナが少し緊張する。
「……こわい」
フィーネは続ける。
「錬金術師という存在は、それだけで価値がある。ましてやお主のような規格外となればな」
アルマはきょとんとする。
「規格外ってそんなに?」
フィーネはため息をつく。
「自覚がないのが恐ろしいところだ」
ルナが小さく笑う。
「でも、アルマお姉ちゃんってそういうとこだよね」
「え?」
「気にしてないところ」
アルマは少し考えてから言う。
「だってさ」
空を見上げる。
「楽しいほうがいいじゃん」
その言葉はあまりにも単純で、だからこそ強かった。
フィーネは少しだけ目を細める。
「……その考えが、どこまで通じるかだな」
風が吹く。
草原が揺れる。
遠くには王都の影。
そしてそのさらに先には、まだ見ぬ国々が広がっている。
アルマは一歩前に出る。
「でもさ!」
振り返る。
「行ってみたいよね、その帝国も!」
ルナが驚く。
「え!?」
フィーネは呆れたように言う。
「……話を聞いていたか?」
「聞いてたよ?」
アルマは笑う。
「だからこそ気になるんじゃん!」
その目は、純粋な好奇心で輝いていた。
フィーネはしばらく黙ったあと、小さく息を吐く。
「……やはり、お主はそういうやつだ」
ルナは少し不安そうにしながらも、どこか楽しそうに言う。
「でも……ちょっと行ってみたいかも」
フィーネは二人を見る。
そして、ほんのわずかに口元を緩めた。
「……ならば、いずれな」
その言葉は許可ではない。
だが否定でもなかった。
三人は再び歩き出す。
広い草原の中を。
その先に待つものを知らぬまま。
──世界は広い。
そしてその世界は、確実に彼女たちを中心に動き始めていた。
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次回もお楽しみに




