40 事件!?
市政庁を出たところで、アランさんたちとはお別れ。
「いろいろとありがとうございました」
「こちらこそ」
アランさんは爽やかに笑う。
「とりさんとねこくんがいたおかげで、貴重なものが見られたよ」
それはニコラさんのさっきのあれのことだろう。
私もびっくりした。てっきりめちゃくちゃ怒られると思ったのに。
ぬいぐるみ好きなんだろうか。
今度、マルクさんに訊いてみよう。もしかしたら、常連かもしれない。
「もちろん、フィリマもね。君がいなかったら死んでいたよ」
優しいアランさんはそう付け加えてくれる。
「いえ、そんな! 私のほうこそ報告のこととか全然わからなくて勉強になりました。ありがとうございました」
「それならよかった。お互いにプラスになった仕事だったね」
そう言って、アランさんは手を振った。
「じゃあ、また機会があったら一緒に仕事をしよう」
「はい、ぜひ!」
「じゃあな皆の衆ー」
「またねー」
とりとねこもふこふこと手を振る。
ドスンさんが手を上げ、パッスンさんはさっそくパイプをくわえながらにやりと笑ってくれた。
角を曲がるまで三人を見送ってから、私はとりとねこを見る。
ふたりともとっくに飽きて地面に絵とか描いてた。
「さ、帰ろう」
「はーい」
「ほーい」
私たちは街の中心部をふこふこと歩く。あ、私は別にふこふことは歩いてないけど、とりねこと歩いているとそんな気になる。
まだ太陽は高い。このまままっすぐ家に帰るのもちょっとさびしいような。
「市場でも覗いていこうか」
「大市は明日だぞ」
「今日はただの市」
変に詳しいな。
まあ確かにマルクさんのお店で売り子をやってるから、私よりも市場の事情には詳しいのかもしれないけど。
「普通の市でもいいでしょ。見て帰ろう」
「マルクさんいるかな」
「どうだろうねえ」
そんな風に話しながら、市場へ向かおうとしたとき。
「あ」
先頭をちんちろりんと歩いていたとりが、急に立ち止まった。
「わあ」
「あぶない」
ねこがとりにぶつかって、私はふたりを踏みつぶしそうになる。
「ちょっと、とりさん。急に止まったら危ないよ」
でもとりは私のほうなんか見もせずに、路地を覗き込んでいる。
「どうしたの」
「死体がある」
「へっ!?」
「人の死体だ」
思ってもみない一言に、私も慌ててその路地を覗き込む。
両側の建物が迫っている細くて狭い路地に、うずくまるようにして死体があった。
「ほんとだ」
「……でも、あれって」
ずいぶんと時間の経った死体だ。
だって、もう肉も皮も全然残っていない。
骨だけなんだから。
つまり、骸骨。
骸骨が路地にしゃがみこんでいる。なんというか、すごくシュール。
「あー、よく見たらほねっちじゃん!」
とりが路地に駆けこんでいく。
「あ、ほんとだ! ほねっちだー!」
ねこも続く。
あ、やっぱりそうなのか……。
フーウ族のネクロマンサー、オルカタさんの連れていたスケルトン、通称ほねっち。
とりとねことはすっかり仲良しのはずだけど、ふたりが乗っかったりぺしぺしと叩いたりしても骸骨は何の反応もしない。
「ねえ、それ本当にほねっち?」
ちょっと心配になってきた。
私、骨の見分けなんてそんなにつかないし。
「別の人の骨じゃない?」
「いや、ほねっちだ」
とりは自信満々に答える。
「だって、ほら。ここを見ろ」
とりが短い手羽でふこりと指さしたのは、骨盤の真ん中あたり。
そこに赤い字で
『スレンダーポット市政庁アンデッド登録 第37564号
所有者 オルカタ 登録年月日●●●●』
と書かれたシールが貼られていた。
「あ、ほんとだ」
その日付は、ちょうど私たちがオルカタさんに会った日だ。
そういえばあの日、オルカタさんは登録に行かなくちゃいけないとか言ってた気がする。
でも、これがほねっちだとすると、動かないってことは。
「死霊術の効果が切れてるのかな」
ネクロマンサーが使う、死体を動かす死霊術。その効果が切れてしまえば、ほねっちだろうと誰だろうとただの死体に過ぎない。
「オルカタさんがいないから」
「オルカタさんがいないとほねっちは動かないのか」
ほねっちの右の眼窩からぽこりと顔を出したとりが残念そうに言う。
「こんなところに置きっぱなしにして、忘れちゃったのかな」
左の眼窩からすこんと顔を出したねこも言う。
「ふたりとも、見た目があんまりよくないから、やめて」
「えー」
「えー」
それにしても、ちゃんと登録までしたほねっちをこんなところに置いて、オルカタさんはどこに行ってしまったのだろう。




