39 我慢していたようです。
五十匹のゴブリンを退治した現場には、すでに治安局の職員さんたちが確認に行っているという。
ゴブリンの死骸を放っておくと、別の魔物をおびき寄せることにもなりかねないので、街の安全を守るためにきちんと処理する必要があるんだそうだ。
基本的に人間相手だった軍では、あまりない発想で、ちょっと新鮮だった。
「職員は52匹のゴブリンの死骸を確認しています」
あくまで事務的な口調でニコラさんは言った。
「その退治にかかわったのは、今こちらにいる四名のほかに、この書類に名前のある八名の冒険者ということでよろしいですね?」
「はい」
アランさんは頷く。
「彼らは、応援に駆け付けてくれた仲間たちです」
「そしてその応援を呼んだのはぼくら」
とりがふこりと胸を張る。
「大至急の大殊勲」
ねこも腕をぴこりと上げる。
ニコラさんは眉間にしわを寄せたままふたりを見つめ、それから咳払いをして書類に目を戻した。
「負傷者は二名、アランさんとドスンさん」
「はい。ですが、治癒の魔法で治療してもらいました」
アランさんが答え、ドスンさんが頷く。
「一度目は痕跡を見逃していたにもかかわらず、自主的に二度目の確認を行い、ゴブリンを発見して退治している。この点は特筆すべきと考えます」
ニコラさんは言った。
とりがすかさず手を挙げる。
「ニコラ警尉! それを教えてくれたのはカラスのカー公とカー助だからふたりもほめてあげてください!」
「私のほうからカラスを褒めるわけにはいかないので」
ニコラさんは冷静に言った。
「あなたからよろしくお伝えください」
「承知!」
とりがびしりと敬礼する。ニコラ警尉はあくまで冷静だ。
「この点を特筆すべき表彰条件として市に上申しようと思います。とはいえ、これは特例ですので、表彰されようとして故意に一度目を見逃して二度目に退治するというような不正を今後働くことのなきよう承知おきください」
「もちろんです」
アランさんが頷く。
「ありがとうございます」
「つまりどういうことだ?」
「むずかしいね、とりさん」
とりとねこはひそひそと囁き合っている。
「つまり、よくやってくれましたってことだよ」
私が言うと、とりとねこはぱあっと目を輝かせた。
「ニコラ警尉すき!」
「すき!」
「あ、ちょっと!」
止める間もなく、とりとねこがニコラさんの胸に飛び込んだ。
「きゃあっ」
ふこんと飛び込んできたふたりをとっさに両手で受け止めたニコラさん。持っていた書類がばさりと床に落ちる。
「ああ、すみません!」
慌てて拾おうと思ったら、返事がない。
見ると、ニコラさんはとりとねこを持ったまま、ふるふると震えていた。
「ああっ、もう!」
突然ニコラさんは叫んだ。
「なんてかわいい、なんてふこふこ!」
そう言いながら、とりとねこを抱きしめると、頬ずりを始める。クールな眼鏡がずれてしまったけど、そんなのお構いなしだ。
「この肌触りが……ふこふこしていて……なんでこんなにかわいいのっ」
「うふふふふ」
「えへへへへ」
とりとねこは満更でもなさそうにされるがままになっている。
身体がみょいんみょいんと歪んでいる。
「……」
「……はっ」
私たちの視線に気づいたニコラさんは、慌ててとりとねこを机に置いた。
「もぎゅ」
「むに」
「て、手続きは以上です」
真っ赤な顔で眼鏡を直すと、ニコラさんは言った。
「お疲れさまでした。表彰が決まった際は、ギルドを通して連絡します」




