38 どう?
「冒険者ギルドの、ええと」
女の人は手元の書類にちらりと目を走らせる。
「白い燕の三名、アランさん、ドスンさん、パッスンさん」
「はい、そうです」
とアランさん。
ドスンさんとパッスンさんは対外的なことは全部リーダーに任せているらしく、割と他人事っぽい感じで聞いている。
「それと臨時メンバーの、フィリマさん」
「はい」
私も返事する。
「以上四名ですね」
女性はこちらを見ることもなく、
「治安局のニコラ警尉です」
と自己紹介してくれた。
事務的で冷たい感じだけど、さっきのおじさんよりは丁寧かな…と思った矢先。
「あとぼくらもいるぞ」
ああ……。
ドスンさんの肩の上から余計な声がした。ニコラさんが顔を上げる。
「冒険者パーティ“とり帝国”のとりです」
「同じくねこです」
ニコラさんは眉間にちょっとしわを寄せて、得意げに胸を張っているふたつのふこふこを見つめてから、咎めるようにアランさんを見た。
「何ですか、それは」
「あ、ええと」
さすがのアランさんも言葉に詰まる。私が説明しよう。
「あの、この子たちは私の」
「あなたの腹話術ですか」
「え。いえ、違います」
「あなたが操っているということでいいのですか?」
「操っていると言いますか、その」
「操られてなどいない」
とりが偉そうに言った。
「ぼくらは自我を持ったふこふこ」
「まっとうに生きているぬいぐるみ」
ねこも言う。
ニコラさんの眉間のしわがますます深くなる。
「自律型の魔法生物ということですか」
「まあ、そのようなもので」
「ちがうぞ。化学繊維製の愛玩用玩具だ」
「めいどいんちゃいなで、こんてなでりくあげ」
「黙ってて。ややこしくなるから」
止めてみるけど。
「報告に関係ないものを治安局に持ち込まないでください」
ニコラさんにぴしゃりと言われてしまった。
「すみません……」
「いえ、ニコラ警尉。今回の僕らの報告には、彼らの活躍もかなりの大きなウェイトを占めていますので」
アランさんが言った。
「そのために、わざわざ同行してもらいました」
その言葉に、とりとねこがぱああっと目を輝かす。
「アラン、すき」
「アラン、かっこいい」
「活躍?」
ニコラさんは眉間にしわを寄せたまま、とりとねこを見る。
「ゴブリン退治と聞いていますが」
「はい」
「ゴブリン退治に、このぬいぐるみが?」
「そうです」
ニコラさんは険しい顔でとりをじっと見つめる。
とりもなぜか無言でニコラさんをじっと見つめる。
謎の時間が流れて、とりがなぜかふこりと小首をかしげると、ニコラさんはぱっと視線をそらした。
「まあ、そういうことであれば」
ニコラさんは言った。
「今回はいいでしょう」
とりが勝った……のか?
ニコラさんはとりとねこをもう一度じろりと見てから、書類に目を戻した。
「本題に入りましょう」
よかった。なんとか認めてもらえた。
ありがとう、アランさん。
目だけでアランさんに感謝を伝える。
アランさんはちょっと笑って小さく首を振る。
認められたからなのか、とりとねこは堂々と机の上に上って来て、アランさんの前にふこりと座る。
まるで代表者みたい。
「では、今回の経緯について説明を」
ニコラさんに求められて、アランさんはリサさんの作ってくれた書類に沿って説明していく。
初日の定期パトロールでは何も異常を見つけられなかったこと。
でも翌日、カラスから得た情報で錆びた短剣を見つけたこと。
そして、三日目、その場所から足跡をたどってゴブリンの小部隊(五十匹と言ってもゴブリンとしては小部隊という扱いなのだ。百匹を超えることも普通にあるし、一つの氏族がまるごと動くとなると千じゃとてもきかない)を見つけて、戦闘になったこと。
とりとねこの呼んでくれた応援のおかげで、一匹の討ち漏らしもなく退治が完了したこと。
それらをアランさんはすらすらと説明してくれた。
最初から思ってたけど、アランさんって戦士っていうか、もっと学のあるジョブのイメージ。
あ、別に戦士の皆さんが学がないと言ってるわけではありませんが。
でも戦士って、ほら、ジョイスさんみたいな感じの人が多いから……。
とりとねこは、自分たちの活躍の場面になるとにょいんと体を縦に伸ばしてニコラさんにアピールしている。
「……なるほど」
ニコラさんは頷いた。
書類に目を落としたまま、説明の間もこちらをほとんど見ることはなかった。
「分かりました」
冷たい声でそう言った。
とりとねこが机の上をふこふこと近寄っていく。
「あ」
やめなさい。
「どう?」
とりがきらきらしたビーズの目でニコラさんを見上げる。
「どう?」
とねこも訊く。
ぼくらの活躍、どう? と訊いてるのだ、多分。図々しいから。
ニコラさんは険しい顔のままとりとねこを見下ろし、それから、
「偉かったですね」
と言ってくれた。




