26 歓迎されてないっぽい。
「そうか、こいつを操ってるのはあんたか」
そう言いながら、オルカタさんは私のほうに近づいてきた。手には、とりをぶら下げたまま。
よくわかんないけど、とりもなんだか気持ちよさそうな顔でされるがままになっている。
「うちのギルドにも、マジックユーザーが増えたってわけか。あんたがこいつらのマスターなんだな」
「え、違います」
「そんなわけないだろう」
「超的外れ」
私ととりとねこに同時に否定されて、オルカタさんは目を丸くして固まった。
「……なんだって?」
「違いますと言いました」
「ぜんぜんちがう」
「お前、あそこのスケルトンと一緒で中身がスカスカじゃないか」
とりが摘ままれたままの姿勢で、はあ、とため息をついた。
「ぼくらを見ればわかるだろう。どこからどう見たって、立派に自立したぬいぐるみだろうに」
「そうそう」
ねこも私の肩の上でうなずく。
「かわいいのに頼もしい」
「かわいいのにしっかり者」
「かわいいのに大人」
「かわいいのにかわいい」
「やめろ、うるさい」
オルカタさんはとりを私に向かって高々と投げた。
「うわー」
とりはくるくると回って、私の手にぽすんとおさまった。
「とりさん、飛んでたよ!」
「まあね。ぼくの翼をもってすれば」
うわー、と悲鳴を上げてたくせに、とりはちょっと得意そうに短い手羽をぴこぴこと動かす。
っていうか、投げられただけです。
「うちの子に乱暴はやめてください」
私がきっと睨むと、オルカタさんはその少年のような外見に似合わず、ふん、といじわるそうな笑顔を浮かべた。
「呪い師風情が偉そうに。俺を誰だと思ってるんだ」
「オルカタ、彼女は呪い師じゃない」
私が答えるより前に、アランさんがそう言った。
「フィリマは魔法使いだ」
「魔法使い?」
オルカタさんの表情が険しくなる。
「魔法使いだと? それなら、あいつと同じってことか?」
あいつ?
「フィリマはフィリマだ。同じじゃない」
「俺はそうは思わないね」
オルカタさんはなぜか、すごく敵意のこもった眼で私を見た。
「魔法使いなら、なおさら歓迎はできないな」
「ええっと、それはどういう……」
びゅう、と強い風が吹きつけて、私は思わず口を閉じた。
「歓迎できないと言ってるんだよ」
「オルカタ」
アランさんの咎めるような口調。
「よせ」
「いいや、やめないね」
フーウ族独特の長い耳が、ぴん、と動いた。
それとともに、不穏な空気があたりに漂う。
同じマジックユーザーの私にはわかった。これは、オルカタさんの力だ。死霊術で何かを起こそうとしている。
「俺たちとことを構える気か、オルカタ」
アランさんがそう言うと、ドスンさんがそれに呼応したみたいに斧を構えた。パッスンさんも下ろしていた弓を構えて、オルカタさんに狙いをつける。
「こっちは三人だ。そんなことをすれば、さすがに冗談では済まない事くらいは分かるだろう」
とアランさん。
「この街にだっていられなくなるぞ」
それだけの敵意を向けられても、オルカタさんは全くひるまなかった。
「俺がどこで生きるのかは、俺自身が決める」
オルカタさんは言った。
「フーウ族の意思を曲げることなんて、誰にもできはしないからな」
一触即発。
まさにそんな雰囲気になった。
私は、まさか迂闊な魔法をオルカタさんに使うわけにもいかず、どうしようかと困っていたんだけど。
いつの間にか、私の手と肩にいたはずのふこふこのけものたちがいなくなっていた。
……あれ?
「あんな昔のことをこだわってるのは、もうお前だけだ。オルカタ」
とアランさん。でもオルカタさんは首を振る。
「お前ら短命の人間にとっては、あんな昔のことなんだろう。だけど俺たちフーウにとっては昨日も同然だ」
「とにかく、彼女には関係のないことだ」
「いいや、俺にとっては同じだ」
アランさんたちは言い争っているけれど。
「……あのー」
恐る恐る口を挟もうとしたけど、二人の口論は構わず続いた。
「そもそも、魔法使いをすべて十把一からげにすること自体がナンセンスだ」
「お前らが俺たちフーウをほかの種族と十把一からげにするようにか?」
「そんなことは言っていない!」
「あのー」
「ギルドにもすっかり顔を出していないそうじゃないか。そのくせ、ギルドに魔法使いはいらないなどとよくもぬけぬけと」
「だから、お前らの時間の感覚で俺たちを測るな。忘れっぽく、滅びやすい種族め」
「あの!」
大きな声を出したら、さすがにみんなこっちを向いてくれた。
「なんだ」
オルカタさんが冷たい目で私を見る。
「いいんですか?」
「何がだ」
「あれです。あのままで」
私はオルカタさんの背後を指さした。
「なに?」
振り返ったオルカタさんが固まった。
彼の使役するスケルトンが、とりとねこを両肩に乗せて街のほうへと歩き去っていくところだったからだ。
「お、おい! どこへ行く!」
慌ててスケルトンを呼び止めるオルカタさん。
でもスケルトンは振り向かない。
とりとねこと、なにやらめちゃくちゃ盛り上がってるっぽい。声は聞こえないけど(というか、声出せるのかな?)、時々骨をカタカタを揺らして笑ってるから、かなり楽しそう。
「やるじゃん、ほねっち」
「ぼくも見たかった!」
とりとねこの声は聞こえる。ほねっち……。勝手に名前つけてる。
「なんで、俺のスケルトンを勝手に操れるんだ」
オルカタさんが、すごく焦った顔で私を振り返った。
「あいつらは、いったい何なんだ!」
「ぬいぐるみですけど」
「ただのぬいぐるみにそんなことができるはずないだろう!」
「できると思います。あのふたり、誰とでもすぐ打ち解けるので」
私が言うと、オルカタさんは地面に着くんじゃないかっていうくらい、アゴを落とした。
「ありえない……」
それがあり得るんだよなー。
とりとねこにとっては、スケルトンもドスンさんやアランさんと同じなんだろう。
「多分、止めないとそのまま街まで行っちゃいますよ」
私の言葉を聞くと、オルカタさんは慌てて走り出した。




