No.14異世界のせんせー
こんにちは。タルトです。
この作品に出合っていただいて、そして読もうと考えてくださってありがとうございます。
いい作品に出合えたと思ってもらえるよう頑張って書いたつもりです。楽しんでいってください。
「せんせー。そのシアン化カリウムが溶けるとなんで人体に有害なんですかー?」
「いい質問だぞ!助手君!それはね、――」
まさか、僕みたいな人間が教鞭をとるなんて驚きだ。人間何があるかわからないね。
***
僕、サトシと、警官のジャスさん、そして高名な魔法使いさんはいまこの町の浄化に精を出しています。一個目の川は魔法使いさんが浄化をしてくれた。その後僕らは哲学や魔法についてワイワイ話しながら二個目の川に向かっていた。
「魔法についてはわかったよ。じゃあさ、この水の浄化が出来る人を連れてくれば完全に水がきれいになるのか?」
「まあ、その人の魔力によるかな。浄化の機序が分かっていれば想像もたやすいからね。」
「だけど、そんなことが出来る人はここ何年かでいなかったけどね。」
「ふーん。じゃあ僕の魔力でそれはできそう?」
「うーん。見た感じ魔力はそこまで多くないね。というか少ない方……というかいくらなんでも機序は知らないでしょ?それが分かってないんだったら魔力とか関係ないよ。」
「まさか機序が分かってるとか?」
「そうだと言ったら?」
ニヤニヤしてしまう。いやあ、何年かかってもできなかった機序の解明か。痺れるね、我ながら。
「いやいや、嘘はいけないよ。流石にそんなことが……」
そんなことを言いながら僕の目を見てくる。きれいな目だ。赤くて丸くて大きい目だ。こんどからあまおうと呼ぶことにしよう。
「なんか邪なことを考えてない?まあ、嘘ってことでしょ?」
んー。嘘呼ばわりされてしまった。邪なことなんて考えていないのだが。いや、あまおうみたいな目だなんて邪っちゃ邪か。
「いや、ファシーさんよ、こいつは本当にわかってるぞ。信じたくない気持ちはわかるがな。」
お、ジャスさんが援護してくれた。うれしい。最初は被疑者だったからな。そしてどうやら魔法使いさんはファシーという名前らしい。残念、あまおうではないらしい。
「えぇえええええええええええええええええええええええええ?!?!?!?!?!?!」
ファシーさんの絶叫が森に響いた。
ファシーさんの希望により、僕らは川の浄化旅を一旦中止し、町に戻ってきた。
そして今はファシーさんに僕がどうやって特定をしたかといった華々しい活躍を伝えているところだ。
「――君の話は全く信用できない!やだね!やだね!そんな話信じないもんね!ばーか!ばーか!」
こんのクソガキ!!!!!!どうやって浄化したのか聞きたいと言われたから話してやったのに!というかキャラ守れって!おまえもっと淑女らしくしろよ!
クソガキとの会話は疲れるな。僕は育ちがいいので、もちろんこんな低級なけんかはしないさっ。
「――はーーーー?!バカっていう方がバカなんですー!!!!何ですかー!天才(笑)と言われている魔法使いなのに解明できなかったんですかーーー???持ち前の超すごい想像力はどうしたんですかーー!!!!」
……どうやら僕らは同じ穴の狢らしい。
***
言い争っている間黙って聞いていたジャスさんから、それなら浄化された水を見せればいいのでは?とのありがたい助言があったので、今から僕の宿に行くことにした。
このクソガキに目にもの見せてやるぜ!!!
「ほら、鑑定してみろよ!さすがに天才(笑)さんなら鑑定スキルぐらい持ってるよな?」
「ふん!なめてもらっちゃ困るね!!!持ってるよ!」
そんなことを言いながら僕の作った水を手に取り、鑑定をする。
「………………。」
「おい!どうしたんだよ!謝れよ、おい!鑑定の結果は嘘つかねえぞ、おい!!!」
「ばーか!!!ばーか!!!信じないもんね!!!なんであんたみたいなやつに私が負けなきゃいけないんだ!!!!!絶対信じないもんね!!!!!」
「ヘブッ!!!」
あ、チョップされた。脳天を正確に撃ち抜く、容赦のない一撃。衝撃でファシーの顔が沈む。
うわぁーいたそー。
これ、結構ガチなやつだ。
「謝りなさい。」
「だってだって!!!!私がこんな奴に――」
「謝りなさい。」
「…………ご、ごめんなさい……。」
「おっおう。こちらこそ、ごめん。」
ジャスさんこえーーー。ファシーは首根っこをつかまれた猫のようにおとなしくなってしまった。
「まっまあ、ほら、信じれないのは無理ないよな、うん。難しいもんな……。」
「はあ?!別に難しくなんかないもんね!あんたが理解できることなんて――」
ジャスさんの眼光が鋭くなる。それは聞き分けの悪い子供が委縮するのには十分で……。
「――理解できることなんて簡単だけど……教えてください!!!」
どうやら一件落着となったらしい。
***
「せんせー。そのシアン化カリウムが溶けるとなんで人体に有害なんですかー?」
「いい質問だぞ!助手君!それはね、呼吸が出来なくなるからだぞ!」
教えてくださいという実質の白旗宣言を受け入れ、今はジャスさん含む3人で勉強会をしている。勉強会と言っても、僕が知りうることを一方的に伝達する形になってしまうのだが。
「呼吸が出来なくなる……。たしかに三年前、汚染水を飲んだ人は苦しそうにもがいてたな……。ふむ。サトシさん、なぜ呼吸が出来なくなるのだ?」
「いい質問です。ジャスさん。」
「そもそも、呼吸とは空気を吸収することです。人間の体の中の物質が空気を吸着してくれるので、それで吸収をしています。そして、その吸着してくれるものと、シアン化カリウムの相性がよく、空気よりシアン化カリウムが優先的に吸着してしまいます。すると、空気をくっつけることができなくて呼吸が出来なくなります。」
「……なる、ほど……大体わかった。多分……」
おいおい、高名な魔法使いさんが理解に苦しんでいるぞ、楽しいなあ、おい。
まあ、厳密に言えば酸素だし、物質というより細胞なのだが……
いまここで新しい名称を言うよりぼやかしたほうが互いに楽だろう。
「でも、それならさ、」
ファシーが眉をひそめて、僕の作った水をじっと見つめる。
「これで水を浄化することはできるようになるよ?それこそ完全に浄化はできるんだけどさ……シアン化カリウム?はさ、ずっと飲んでいると溜まっていかないの?ていうか、なんで三年もずっと汚染されたままなの??」
「溜まってはいかないはず……人間の体は少量であれば解毒が出来る……はず……」
「そして、ずっと汚染されているのは…………」
…………なぜなのだろう。
確かに、おかしい。というか、莫大な水を汚染し、その上で三年もその状態を維持するなんて無理だ。それこそ、魔法のような。
しかし、この世界の魔法は奇跡の力なんかではない。あくまで現実に起こりうることを魔力が叶えてくれる、代行してくれるというだけ。
しかも汚染の原因はシアン化カリウムなのだろう?なら、どうやってシアン化カリウムを大量に用意したかのメカニズムが分からないと無理では?
「なあ、ファシー。汚染物質を大量に用意することは可能なのか?魔法で。」
「私ならできるよ?特にもう詳しくなったから、楽にできると思う。だけど…………」
「だけど?」
「だけど、普通に考えて三年も効力を発することは無理。それこそ何度もかけ直せばできるけど……」
ふーん。なるほどね。別にできるのか。それは意外。その上でやっぱり三年持たせることは無理か。
この世界は魔法はあれど、万能じゃない。だから、特定ができることはうれしい。魔法だから、異世界だから、という理由で納得をしなければいけないわけではない。
「じゃあさ、ファシーなら実現できるの?」
「うーん。できる、とは言えないね。だって複数の川を人が死ぬまで汚染するんでしょ?毎日川に通えば何とかなるけど、魔力が先に尽きるね。」
「そうか……」
連続的に汚染をすれば、可能ではある、と。逆にそこまでしないと実現は難しいということか。でも、魔王軍は別に毎日欠かさず通っているわけじゃないよな……
ん?というかなんで月に何回かの浄化で対応できるのだ?いや、というか一回汚染をする。そのあとに浄化をされたら徐々に汚染は収まらなければいけないのではないか?月に何度かくることで汚染のレベルを低く保っているという話であったはず。
おかしくないか?これが本当であれば汚染はひとりでに高まっていることにならないか?
「なあ。ファシーは浄化していて気付いたことは何かあるか?」
「分からない。」
即答かよ。おまえ一応三年浄化した実績があるのだろ?
「――いやいや、そんなことないだろ。三年、やっているんだろ?」
「分からない。だって、問題が起こった時にも調査団が組まれたんだよ?三年前の突然死のときもね。でも、みーんな無駄だったの。人を救うことも、魔王軍を捕まえることも、汚染の原因を特定することだって……。わかったのは、川が汚染されてることと、私の浄化が効くってことだけだったんだもん……」
「それは…………もう無理だ。それなら。もう……」
「諦めちゃダメだ。サトシさん。あんたは希望だ。この街が三年経っても成し遂げられなかったことを成し遂げた。あんたなら、この街を救える。」
ジャスさんが期待大という目で見てくる。
もちろん応えたいが……しかし、手詰まり感が酷いんだよな。さて、どうしたものか。
仕方ない。ここは考えられることをすべて試していくしかないか。
とりあえず、現状整理から。汚染の原因はシアン化カリウム。そして魔王軍がそれを川に溶かして現在に至る。おかしな点は、三年も効力があること、浄化をしたのに暫く経つと元通りになってしまうこと、か。
毎日魔王軍の誰かしらが通っているとしたらどうだろう。可能性はゼロではないが、限りなく低いのではないか?魔王軍を捕らえることが出来なかったという発言と、今まで魔王軍の目撃情報がないことから、毎日来ている点は薄い。
というか、毎日来ていたらファシーの浄化も効かないはず。次の日に元通りになっているはず。
またはファシーの浄化が強すぎて十日かけて汚染を元通りにできず、汚染が低いレベルにずっと抑えられているという点。これは魔王軍の汚染を抑えているというより魔王軍が浄化を上回ろうとしているという考え方。
うーん。ないかな。三年もそんないたちごっこをするとは考えにくいし、毎日来れるようなフッ軽ならファシーを襲えばいい。
あと考えられることは……まあ街の人間に魔王軍の手先がいるという考え方。これなら、捉えることが出来ていない理由も、目撃情報がない理由も納得はできる。しかし、それなら三年も待つだろうか。さっさと壊滅させようとするのではないか?三年前はバタバタ人が死ぬほどの汚染を作り出したのだろう?街の住人を壊滅させることも容易だと思うのだが……
他には、まあ、ファシーの浄化が嘘である可能性……
いや、ないか。少なくとも三年前に比べて人は死ななくなっている。それだけでファシーの浄化は嘘ではないのだろう。まあ、信じよう。
というか、ファシーの浄化ってなんだ?僕は今まで、浄化とは永続的にその場所をきれいにするものだと思っていた。しかし、そもそも浄化が一時的な封印であれば、説明はつくのではないか?
例えば、ビーカー内の汚染水を浄化し、そのあとに蓋をする。僕の考えていた浄化では、この水が外力が加わらない以上、この水は浄化されたままだ。何日経っても汚染が戻ることはない。しかし、それが戻るとしたら?一時的に汚染を封印しているだけで、十日経ったら効力が戻る形式の魔法だとしたら?
いや、ないか?もし、そうなら飲んだ人間が生きていることが説明がつかない。川は、絶えず浄化をしているから、浄化が一時的な封印でも三年間浄化され続けていることに説明がつく。しかし、その水を飲んだ人間は体に浄化魔法をかけられることはない。なら、体の中で封印が解け、毒に置かされるはずなのだ。しかし、この三年間でそうはなっていない。これは考えにくい。
ふーむ。他には。水源が侵されている説か。浄化旅について行って分かったのだが、浄化魔法は水源に行うのではなく、上流に行っていた。まあ、水源を特定することや、そこに行く手間を考えたら妥当なのだろう。したがって、水源が汚染されていれば、そこを浄化していないのだから汚染が元通りになることも説明がつく。この可能性は捨てきれない。
他には…………もうないかな?ここら辺で一旦やめて、この二人と考えを共有するとしよう。
なら、最初の質問は――
「――なあ、ファシーの使う浄化魔法ってどんなもんなんだ?」
「え?どういうこと?」
「いや、だから。魔法についてはいろいろ教えてもらったけど、ファシーが使う魔法についてはまだ知らないだろ?それを教えてほしい。」
「ふーん?なるほどね。じゃあ先生は?」
「……」
今はそういうときじゃないだろ。こんのクソガキ!なぜ僕が自分よりもしかしたら年下の女の子相手に先生だなんて……!!!
「せっ……せんせー。せんせーの使う魔法について教えてー。」
「ふふん♪じゃあ教えてあげるね!私の使う魔法はね、人を救うって言う魔法なの!」
「………………」
それだけ?なの?おいおいおいおい!そう言えばこいつって天才型じゃん!言語化が出来ねえんだ。仕方ない。ここは僕が上手くリードしてやるしか――
「――ええっと……人を救うって?」
「だーかーらー!人を救うように祈るんだよ。そして悪い魔王の力をきれいにするように、黒い紙を白で塗るように、想像する。魔王軍の汚染を分解し、作り変えるように想像する。バラバラにして、作り変える。」
「バラバラにして、作り変える…………」
つまり、ファシーの浄化は魔王軍の汚染を作りかえる。というか原子間同士の結合をぶった切る作用なのだろう。触媒も熱も使わずに結合を切るなんて考えにくいが、そこはまあ、さすが異世界としておこう。
というかこいつなぜ化学を全く知らないのに化学反応じみたことが出来るのだろう。
まあ、だから天才なのかもしれないが。
「――ありがとう。見えてきた。」
そうは言うものの、新しい疑問が生まれる。結合を切ることは魔法などの外力の影響が必ず必要だ。自然界で何らかの物質が勝手に結合を切られてバラバラになることはない。そして同じように、バラバラの原子が勝手に結合をして別の物質になることはない。
何が言いたいかというと、三年間も汚染が続いていることの説明がつかない、ということだ。
というか、普通に魔王軍が水源に籠って絶えず汚染を作り続けるだとか、水源に汚染装置があるとか、そういうことだとは思うが。
「なあ、誰か水源を見た人はいるのか? 」
「水源は、調査団が調査をして問題がなかったとの報告のはずだ。報告書がうちの詰め所にもあるが見るかい?」
「ありがとうございます、ジャスさん。必要があるときは見ます。」
問題がない?ちゃんと調査したのか?
これに関してはいろいろ考えられる。そもそも水源に問題はなかったという可能性もあるが、ここでは考えないこととしよう。もし、問題があったが、見えなかった。とするならば、例えば蜃気楼であったり、光の屈折・反射であったりで見えなかったということが考えられる。
他には、シアン化カリウムは水溶性なので、溶け切ったから見えなくなった。とか、調査団が魔王の傀儡で嘘の報告書だったとか、実は見ていた水源が別の水源であったとか、かな?
まあ、化学知識を持った僕がもう一度行くべきなのだろうなあ……いやだなあ。
「つかぬことをお伺いしますが。ジャスさんは汚染された川の水源をご存じですか?」
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ダメだしや、誤字脱字などでも、教えてくださいね。
皆様の感想は全て読ませて頂き、今後に活かしたいと思います。
ここまで読んでくださった皆さん本当にありがとうございました。




