九話目
「チヒロ!チヒロはいるか!」
おっと、全身鎧がまた来たぞ。
「俺だが?」
「何馬鹿なことを言っている!」
「やっぱ凄いなぁ。背格好も分からないのに人を探せるっていうのは。そこのサビダも同じこと言ってたぞ。」
俺は、何か言いたそうなファミレを後ろ手で制して、酒場の方を指さしながらそう言った。
「…まさか、お前がチヒロなのか?」
「何の用なんだ?お前はどこの誰なんだ?そこら辺をはっきりしてくれ。程度が知れるぞ?」
「…ザッドの街警備隊の副隊長。ケルビンだ。領主さまがお前のことを呼んでいる。」
「何か貰えるのか?」
「さぁな。分からん。」
「…そうかい。まぁ行くとするよ。」
「分かった、じゃあついてこい。」
「あぁ、サビダはあそこで酒の肴になってるから、あとで迎えにきてやってくれ。」
俺は酒場の方を指さして言った。するとケルビンは分かりやすく怒った。
「…まさかお前が!」
「冒険者にやられるような強さで、一体何を警備するつもりなんだ?」
俺がそう言うと、後ろでマセルが吹き出す声がした。
「…ついてこい。」
鎧で見えないけど顔真っ赤なんだろうなぁ。とか思いながらも、ケルビンについて行った。
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連れて行かれた先は、宮殿だった。
本当は、領主さまの住む城なのだが、もはやその規模は宮殿だった。
庭があって、噴水があって、屋敷の形は左右対称で、離れもある。宮殿もいいとこだろ。
そう思いつつ、宮殿の中に入った。
すると、タキシードを着た老年の男性がいた。
「お待ちしておりました。私、イラーエ・ジデマ様の執事であります、セバスチャンでございます。」
「分かった。案内を頼む。」
そうして、奥まった部屋に案内された。
「では、私はこれにて。」
「案内ありがとう。」
セバスチャンはどっか行った。
さて、扉を開けよう。
「待っていたぞ?チヒロ君。」
扉を開けると広い部屋の奥で、椅子に座って、机に足を乗っけていて、葉巻をふかしているデブがいた。
あれがこの街の領主とか信じられないんだが。
「…俺の姿も分からないのに探していたら待つことになるだろうな。」
するとイラーエは小さく笑った。
「…っはは。そうか。ドラゴンを倒すようなやつなんだ。てっきり大男かと思っていたよ。」
「人を見た目で判断するからそうなるんだぜ?で?何の用なんだ?」
「いや、大したことではないよ。ただ、ドラゴンを倒した証拠を見せてもらおうと思ってね。」
できる訳ないだろう?と、イラーエの眼は笑っている。
考えたら分かりそうなことだろう。巨大なドラゴンの死体が無い時点で、俺がアイテムボックスか何かを持っていると。
まぁ、論より証拠。
広い部屋なので、ドラゴンをアイテムボックスから取り出した。
部屋の踏み場が、ドラゴンでなくなった。
「ほら、これでどうだ?」
「み、認めんぞ!こ、こんなもの偽物ではないか!首がついたままのドラゴンなど、ただの剥製ではないか!」
急にどうした。
首がついたまま…か。アイテムボックスにミスリルのナイフあったし、それで首切ってやるか。
ミスリルのナイフを取り出して、ドラゴンの首を切る。
切り落とした首をイラーエに向ける。
「ほら。首を切ったぞ。」
「み、認めんぞ!私は認めんぞ!ドラゴンはまだ瞬きしているではないか!」
……目玉くりぬくか。
俺は、イラーエの机に、ドラゴンの目玉をくりぬいて、置いた。
「ひぃいい!!認めん!儂はぁあ認めんぞぉぉ!!」
俺は無言で淡々と、ドラゴンの脳みそを掻きだしては机にぶちまけた。
正直、途中から何やってんだろうと思い始めたけど、最後まで続けた。
ドラゴンの脳みそを掻きだし終わったところで、イラーエ様|(笑)は、あまりにもショッキングな光景に失神してしまったようだ。
用件が分からないので、俺は帰っても問題ないだろう。
独断で、帰らせてもらった。
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宿に帰ってきた俺は、とりあえず昼食を貰うことにした。
看板娘が持ってきてくれたオーガ肉定食を食べる。
「…オーガって旨いんだな。」
「はい!そうなんです!」
何気なく呟いた一言に、看板娘が全肯定してくれた。
……名前なんて言うんだ?
「あの、まだ名前を聞いて無いんだが。聞いてもいいか?」
「え?私の名前、ですか?聞かなくたって問題ないと思いますが…。」
言葉だけだと伝わりづらいが、看板娘の顔は赤くなっていて、だんだん尻すぼみになっている。
「関わってるからには、名前を知りたいからな。」
言えない。心の中で一々看板娘って言うのが面倒だから、名前を知りたいなんて言えない。
「その…リッカ…です。」
「そんなに名前を赤くする必要はないと思うんだが…ちなみに、俺はヨシダ・チヒロだ。チヒロと呼んでくれ。」
「い、いえ!お客さんはお客さんですから!」
「…そうか。」
「私、厨房見て来なきゃ!」
看板娘改めリッカは、そう言って店の奥へと走っていった。
「やっぱ旨いな…。」
俺は、オーガの肉を食って、やはりそう呟いた。
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