四十話目
「……まさか会話の主導権を握られるとはな……。」
何も無かったと言い放ったうえで、自分の事を始末することで生まれるメリットを聞かれた国王は、その質問をはぐらかし、チヒロたちを先に食堂へと移動させた。
その場に呆然と佇んだままの国王は、騎士達が散った中で一人そう呟く。
「……ドベルズは全く余計なことをしてくれた…。」
実際国王がチヒロに説明した通り、ドベルズが独断で騎士達を動かしたのだ。
ドベルズが出すという莫大な報酬につられた騎士達は、王城入口のホールにてチヒロを攻撃するということに至った。
国王が異変に気付きホールまで出向いた時と同時にたまたまチヒロ達が来て、国王、ドベルズ、騎士達という体制でチヒロたちを攻撃した。
「……火の鳥の件については聞かないにしても、せめてあの水の塊については教えてくれるといいのだがなぁ……。」
そう零しながら、国王はホールを立ち去っていく。
ホールには、強く拳を握りしめたドベルズが眠っていた。
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「……しかしなぁ…まさかチヒロ君があそこまでやるなんてなぁ…。」
ルットーは、ただただギルドマスター室で自分の椅子に座りながら驚嘆していた。
「それより自分としては、ファミレさんのほうを気にしたいですけどね。どうやったらあんな巨大な水を固定させることができるんですかね。」
トッシュは、ソファーに座り天井を仰ぎ見ながらそう返す。
「いやー、まさかデハミッシュ王国の辺境、ザッドの街。あの街にまた強者が増えるとはね。」
「え?あの街にギルマスがそう言えるほど強者がいるんですか?」
「一応ランクAだったジェシカだって、あそこに行ったんだよ?その時点で充分じゃないか。」
「まぁ確かに、そうかもしれませんが……。でも一人ですよ?」
ルットーは、机の上にある紅茶を一口飲んでから再び話始める。
「そもそも、あの街にはマセルがいるからね。そして今回の一件で、ファミレちゃんもチヒロ君も強者に数えていいような強さを見せてくれた。…いやぁ、規格外の強さを持った奴が、4人もいるとはね。」
「マセルさんって、そんなに強いんですか?」
背もたれから離れ、体を前のめりにして真剣な表情で聞く。
「彼女はすごいよ。…獣人は普通、魔力が少ないから魔法が使えないだろう?だから、素手や剣で戦う者が多い。」
「まぁ、そうですね。普通の獣人は……ということは、マセルさんは普通じゃないんですか?」
「あぁ。多分獣人では過去も未来も現在も、彼女以外は誰も得ることのできない役職をもっているよ。まぁ、名前が売れる前に若くして引退したから、知っている人はそんなにいないだろうね。」
「それって…まさか、魔法使い…ですか?」
「そうそう。マセルは、獣人で唯一の魔法使い。しかも、人間のそこそこ高位な魔法使いとも拮抗できるほどの力を持っている。」
さも当然のようにルットーは言い放ち、トッシュは唖然としている。
ルットーも言ったが、一般的に獣人は魔力が少ない。だから魔法を数多く使うことはできず、魔法使いとして活動できる者はいない。
それが世間一般の常識である。世間、というか世界の常識である。
その常識に対して、ルットーはいとも簡単に言い放った。
マセルは魔法使いであると。
マセルは例外であると。
ルットーはいつも真面目でたまにしか言わない冗談がこの時だと、トッシュも初めは思っていたが、余りにも自信満々な懐かしそうな笑顔で語るルットーを見て、真実だと言うことを悟った。
「あれ、ギルマス。マセル…さんとは昔交流があったんですか?」
「マセルとは一緒のパーティを組んでいたよ。パーティ名は…何だったかな…。今はもう覚えてないや。大分前の事だからね。」
「え?でも……」
トッシュはここまで言いかけて、ルットーがほぼ毎日パーティの申請等についての書類に逐一目を通している事に気づき、言い直す。
「……そうですか。じゃあ、俺はそろそろ仕事でもしてきましょうかね。」
そう言ってトッシュはソファーから立ちあがり、ギルドマスター室を出た。
「しかし、あいつが自分から仕事するなんてなぁ……。もしかしたらあの水の塊、崩れてくるんじゃないか?」
その冗談交じりの言葉は、ギルドマスター室に寂しく響く。
「はぁ……冒険者時代が懐かしいな。……チヒロ君には、冒険者を途中でやめなきゃいけなくなるようなことにならなきゃいいんだけど。……なんてね。さぁさぁ、遂にトッシュがやる気を出し始めたし。俺も抜かされないように頑張るかな。」
ルットーの机にある一番上の書類は、王都近郊に生息していたナイトウルフの生息が確認できなくなったことについての報告書だった。
いい加減ここに書くといつまでも書かなきゃいけなくなるような気がするんで、ここらでやめにしておきますね。




