#3 朱莉
朱莉は、薫の闘いの行方を見届けていなかった。
薫は負けないだろうと信じていた。けれど、その結果だけは知りたかった。だから朱莉は、知っていそうな祐輔の元へと赴いた。薫も美羽も休みだったので、学校では結果が聞けなかったのだ。
公園で薫と会った次の日の夕方。学校が終わってから、県営ヒルズマンションを訪れた。けれど、エントランスから805号室を呼び出しても、一向に家主は出てこない。
――どうしたんだろ?
今まで、一度として朱莉は、祐輔が留守中に訪ねた事が無かった。よくよく考えれば、外出しているのは普通の事だし、今までの方がおかしかったのだろう――そう思い、今日は引き返すことにした。
自動ドアをくぐり、マンションの敷地から出たとき、朱莉は、一人の男を見咎めた。
「あ、角川さん」
長身痩躯の角川祐輔が、ちょうど、こっちに帰ってくるところだった。傍らに少女はいないが、留守番中だったのだろうか?
「やぁ、朱莉くん。また遊びに来てたのかい?」
祐輔も朱莉を見つけて手を上げた。屋外で祐輔を見たのは、洋子の時以来のような気がした。
「珍しく、外出ですか?」
「ま、そんなトコかな……」
祐輔は朱莉の目の前までやってくると、そこで立ち止まった。朱莉は、てっきりマンションの中に入るものだと思ったので、不思議に思った。
「一つ、忠告があってね」
「忠告……ですか?」
いったい何の事か分からず、朱莉は小首をかしげた。
「ああ。急で済まないが、僕はそろそろ、ここを離れる事にした」
いきなりの話だったので、朱莉は少なからず衝撃を受けた。
「そう……ですか。でも、どうして?」
「色々あってね。眼鏡ちゃんと一緒に遠くに行くよ」
追求者には、追求者なりの事情があるのだろう。朱莉はそれ以上は問い詰めなかった。
「……なんか、お礼したかったな……」
「いや、気にすることはない。けれど、これだけは言わせてくれ」
別離の言葉だろうか? そう、照れくさく思った朱莉だったが――。
「もう、解創の世界に関わるのは、止めておけ」
それは――今までの朱莉の解創との関わりを、否定するものだった。
「え……?」
「結局、君は解創を知っても、こちら側には来なかった。別に、それ自体はいいさ。けれどね、このまま知るだけの立場では居続けられない。こっち側に引きこまれる事になる」
「それって……どういう……?」
困惑する朱莉に、祐輔は畳み掛ける。
「人はね、中立で居続ける事は出来ない。最初の傾きは小さなものでも、後になれば、その傾きは、だんだんと大きくなるんだ。君はここまで、解創についての知識を多く溜め込んできた。だというのに、君はこちらに傾かない。それだけ君は、解創のない世界に傾倒しているということだ。そんな君が、無理に解創に関わり、こっちに来るのは、幸せな事じゃない。中立のまま、解創の知識だけを蓄えて、友人を理解する……その考え自体は、別に悪い事じゃない。けれど、君がそれを出来るかどうかは、また別の話だ」
有無を言わさず突き放すと、祐輔は朱莉に背を向けた。
「忠告はした。後は君の考え次第だ。……それ次第では、君は、命を落とす事になる」
呆然と立ち竦む朱莉を置いて、追求者――角川祐輔は立ち去った。




