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ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$5$ 名前空間
77/113

#1 練磨

本日から第5章が始まります

作品タイトルと5章のサブタイトルを見て、特定の分野で使用されている単語だと気付いた人が、果たしてどのくらいいるのでしょうか……?

 『蓮灘(はすなだ)の記録』と呼ばれる物が存在する。

 それは、特殊な追求者によって創造された存在だ。


 追求者とは元来、解脱の対となる概念『解創』を用いて、自由を追求する者たちである。彼らは、自分たちの自由のために、道具という解創を作成する利己主義者(エゴイスト)だ。

 ゆえに、彼らが解創を知らない一般人に、解創を提供する事はありえない。

 だが、何事にも例外は存在する。

 太平洋戦争時、国に忠義を尽くした追求者がいた。

 日本国民としては、国のために余すことなく力を尽くした賢者。

 だが追求者の中では、自分のためでも、自由のためでもない。技術のために追求した愚者。

 彼らのような追求者は、敗戦後、他国の手から逃れるため、来るべき時を待つ間、別の名を与えられることになった。それは、いつか来る時、彼らを集めるために必要な記号だった。

 プログラミングに精通している人間ならば分かるだろう。一意(ユニーク)な文字列は、重複の無い、固有な物を特定する手段となり得るということを。

 ゆえに、彼らと同じ姓の他人は存在しない。

 それが『架空の姓の追求者』である。

 そして、蓮灘も、その内の一つである。つまり――架空の姓は、蓮灘一つではない。

 複数有る、重複の無い一意な姓。その中に、降棚(ふるたな)という姓があった。


 時は流れ、平成となる。

 架空の姓の追求者の大義は、この七十年で風化した。

 歯を食いしばり耐え抜いた。来る時を待ち続けた。

 だがこの国の神の子は、ただの象徴(シンボル)に成り下がった。実体の伴わない、ただの枠へと衰えてしまった。

 それではならぬ。そう訴える男がいる。

 この国は、かの大国に縛られるべき国では無いと。

 この国の目を覚まさせるのに、もはや手段は選んでいられない。

 彼の力は、自らの肉体の力を上限とする。だから己が肉体を鍛えた。鋼の身体を鍛え続けた事に悔いは無い。

 この時まで、鍛え続けた。誰がなんと言おうと。一人、また一人。大義を捨て、国を忘れた者達を見送りながら、男だけは諦めなかった。

 それこそが動機だった。あの追求者との契約も、そのためのものだ。


 解創者でも、追求者でもない――だが、普通の人間でもない。


 そうして――鍛え抜かれた『降棚の記録』は、『蓮灘の記録』に対峙する決意を固めた。


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