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ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$4$ 刹那の生
67/113

#9 朱莉


「薫くんの様子が変?」

 そうなんです、と朱莉は祐輔に訴える。

 場所は県営ヒルズマンションの805号室。朱莉はすっかり、角川祐輔の家に遊びに来る常連となっていた。だが今日の話題は、超常な現象を引き起こす解創についてではなく、近頃の友人の変化についての相談だった。

「突然、折り鶴の折り方を美羽に訊いてたんです。それも『お願い』って言って……なんか、いつもの蓮灘さんっぽくないなと思って」

 ふむ、と祐輔は一度黙り、考える。

「ふーん……薫くんと、その情報員が話しているところを、僕は直接見た事は無いけど、確かに薫くんが頭を下げて人に物を頼むというのはレアケースだね」

 祐輔は冷蔵庫からペットボトルを取り出した。ミネラルウォーターだった。夏場とあって、喉も渇くのだろう。部屋にクーラーは効いていたが、がんがんというわけではなかった。節電を考慮しての事だろう。

「しかしまぁ……どうして折り鶴なんだろうね?」

 朱莉としては、こっちが訊きたいくらいである。

「さぁ……? 親戚に具合の悪い方がいるとかですかね?」

「忌憚の無い意見を言わせてもらうと、血縁関係であっても、薫くんがそんなに気にするとは思えない。彼女は人との関係を、それほど重要視しないからね」

 朱莉は、その台詞が腑に落ちなかった。

「じゃあ、なんで前に、鈴切って人に、あんなに興味を持ったんですか?」

「彼のような人物は例外さ。なぜなら彼女の憧憬の対象だから」

「……ってことは、そういう人が入院とかしてらっしゃるんですかね?」

 朱莉はあくまで予想を言った。

「うぅむ。……彼女の思う憧憬の対象は自分よりも『強い』人間だが……そんな人間が、病弱だろうかというのは、少し疑問が残るな」

「強さって、別に身体的なものだけじゃないんじゃないですか? 心とか、そういうのの強さだって、蓮灘さんは見てると思います」

 実際、鈴切桐高の時だって、鈴切桐高の解創の力を知ってから薫は動いたのではない。祐輔が裁定委員会から貰った資料を見て、彼女は桐高の精神性に興味を示していたのだから。

「そうだね……それもそうだ。けれど、彼女が誰を見ているのかが分からないね」

「まぁ……それは、いずれ分かるかもしれないし、分からないかもしれないですよ」

「朱莉くんが匙を投げるとは驚いた」

 失礼な。朱莉は少し心外だった。

「ひどいですよ、門川さん。私、しつこい女だと思ってたんですか?」

 頬を膨らませて、朱莉は祐輔に抗議する。

「そういうわけじゃないさ。けど、確かに粘り強いとは思うよ」

 褒められている――と朱莉は一瞬、歓喜しかけたが、朝三暮四だとすぐに気付いた。

「それ、物も言いようってやつじゃないですか?」

「角を立てたつもりは無いんだけどなぁ。けど、認めているのは本当だよ」

 なんか言いくるめられている気はしたが、祐輔が続きを言いたそうなので、口は挟まないでおく。

「君は間近で、瀬戸川布由希と情報員、薫くんとの解創の戦闘を見た。だというのに、君は解創を我が物にしようとしない。薫くんや情報員、僕といった接点を持った立場でありながらだ。君はあくまで、解創を知ることは、友人を知るために留めている。時に人は、手段を目的にしたがるが、君はそういうところがない。初心を忘れないのは大切だ」

 そこまで聞いて、やっぱり朱莉は、こう思う。

「門川さん、やっぱり誤魔化してるでしょ」

 う、と少しだけ祐輔が呻る。

「そんなことは……無いよ」

 なんか迷いがあった。なんか迷いがあった。朱莉は猜疑の視線を祐輔に注ぐが、当の本人は気付いていないフリをして、ペットボトルを呷った。

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