#15 薫
「アンタ、なんでこの街に来たの?」
一縷の望みをかけて、薫は桐高に向かって歩み始める。
「そりゃ、気になるよな」
笑う男は、二十メートルほど先にいる。光量は少なく視界は悪い。見上げると、ちょうど雲が月を覆い隠していた。けれど、男の表情は仔細に見て取れる。笑みはぎこちなく、口の端を僅かに吊り上げているだけだった。
「蓮灘の記録ってヤツだ。お前なら聞き覚え、あるんじゃないか?」
少し頭痛を感じて、薫は目の間を揉む。……結局、角川の言うとおりだった。畜生、とひとりごちるが、何も変わりはしてくれない。
「なんで解創者のアンタが、こんなもんを欲しがるの?」
「欲しいんじゃない、居たいんだ。一緒にさ」
――薫の中で、警報の鐘が鳴る。
「俺は誰にも理解されない、だから独りだった……けど、同じような境遇なら、同じような目に遭ってるだろう? 俺とお前は同類だ。なら、互いに見解を尊重できるし、共有できる。違うか?」
なんで、こんなことになっているんだ。薫は目いっぱい――自分の都合のいいように、彼の言葉を解釈するよう努力するが、結果、導き出せる結論はひとつ。
「アンタが独りを願うのは、誰にも自分を理解できないから。だから理解できる人が居るんなら、一人を願うことは無い……つまり、そういうこと?」
否定してくれ――それは最後の望みを告げるような口調だった。けれど桐高は意を解さず、まったくの本心を――これ以上とない、決定的な一言を口にする。
「そうだ。互いに、独りだろ? ならもう一人を願う必要なんてない。独り者同士、仲良くしようじゃないか」
その時――薫の中から、憑き物が落ちた。
――ああ、そうか。結局コイツも……。
独りになろうとしないんだ。一人になろうとしたんじゃない、独りになるしかなかったから、こいつは独りになっただけなんだ。
望んで独りになったからじゃなくて、そうするしかなかったから一人になった……それだけの妥協の選択。それが桐高の解創だ
そんなの、私が求める一人とは違う。
あの夜、橋の上で見たあの背中が思い出される。けれど今では、それは陳腐なものにしか見えなかった。
結局、自分はちゃんと見れていなかったのだ。鈴切桐高という男の本質を。
彼は孤■だと信じていた。けれど彼は、孤独を感じるだけの、矮小な一人の人間だった。それだけなのだ。ただその孤独の渇望が、人より深かったというだけで……。
鼻に、つん、とする感覚があった。涙を堪える。私は結局、見たいものを見たいように見ていただけで――本質なんて、まったく見通していなかったのだ。
薫は、理想でない男を見つめる。食い入るように、蔑むように――そして別れを告げるように。
頂に立ち、人を置き去りにして――視線を集めながら、それに興味の無い、別の景色を見る在り方。それが孤■だ。
桐高はそれじゃない。お前が孤■じゃないのなら――せいぜい私は、この力でお前を倒そう。
お前の一人への渇望の解創よりも、私の解創の方が深ければ――きっと私は、孤■になれるだけの素質がある――その証明になるはずだから。
瞬間、薫の大腿は、野獣のように収縮し――巨躯は弾けるように飛び出した。
一応書きますが、■となっている部分は、文字化けとかじゃありません。伏字ですので、お使いのPCやスマホ、ガラケー等々、お使いの機器は正常です。
伏字ですが、別に倫理上問題があるとかじゃありませんので、変な勘繰りはしないようにお願い申し上げたりしちゃいます。




