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ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$2$ 気高き一人
21/113

#1 桐高

 一般社会から孤立していながらも、単体で機能する集団は多く存在する。

 田舎の山村や島はその際たるもので、村人が外の社会に出て行くことさえなければ、自己完結した世界は、完璧な循環を維持できる。

 だがこの世に完璧は存在しない。完璧とは人が作り出す幻想だ。それはイレギュラーの可能性を見失わせ、|予測可能な事故の対応策エラートラップを用意することを忘れさせる。それにより有事の際は対応が遅れるので、最悪の結果を招く。

 それは台風や洪水、飢饉といった自然災害を指すのではない。自然と共存する山村であれば、その手の出来事(イベント)は、季節や天候から予想できる。

 たとえば、人の味を知った熊が山から下りてくるとか、そういう『まさか』ということには、まったくと言っていいほど、手も足も出ないものだ。

 それは、人にしても同様だった。

 たとえば、村人が突然、村に歯向かうなんて、誰が考えようか。

 突如として起こった惨劇の中、生き残った彼に残された道は一つだった。村から出て、一般の社会で生きていくという道。

 しかし彼は思い知る。山と街では、常識(パラダイム)が全く異なるということを。

 常識を知らない彼は、社会にいながら社会に居れない、たった一人の異邦人。築き上げた十余年の人生が枷となり、世界に適応できずに四苦八苦する。

 ただ単純に空間だけを見たとき、その空間にルールはない。けれど人が生活するうえでルールがあり、事実、彼が苦しんでいるのは、そこに誰かがルールを作ったからだ。一つの存在が作った規律が、同じ空間にいる存在を束縛する。

 だが――束縛されない例外もある。人が規律を課せるのは、あくまで人だけなのだ。

 彼はあるとき、アメリカとメキシコの国境付近で起きた強盗事件のあらましを知った。

 アメリカで強盗を働いた男が、追ってくるアメリカの警察から逃げるため、国境を越えて逃亡した。強盗はそもそも律から外れた者だから関係ないが、規律を守るべくして存在する警察官は、そうはいかない。無断で国境を越えれば犯罪になるので、警察官は国境を越える強盗を、黙って見ているしかなかった。目の前に犯人がいるというのに、目に見えない境界に邪魔されるとは、まったく茶番である。

 だが――その人の作りし境界を、やすやすと飛び越えた(つわもの)がいた。

 ソレは容易く強盗を圧倒し時間を稼ぎ、遅れてやってきたメキシコ警察によって、強盗は逮捕されたという。

 強盗に対峙したのは、アメリカの警察官ではなく、アメリカの警察犬だった。犬は国境という、人の都合で決められた線引きを判断できるわけないのだから、責任は無い。当然、お咎めなどあるわけも無く、事件は収束を迎えたそうだ。

 人からすれば笑い話だが、彼にとっては違った。

 規律とは、あくまで規律を理解できる者にしか有効ではない。この事実は、彼に大きな衝撃を与えた。

 そう考えると、世の中に理不尽は腐るほどある。

 日本で複数人を殺しても、責任能力が無いと判断されれば、死刑にならないことがある。行動には責任が伴うが、そもそも、自分が行っている行動が社会にどう影響を与えるか――とか、善悪の区別がつくかとか、それが理解できていない者を、理解できる者に課す法という概念で裁けるはずがないのだから、当然といえば当然だ。

 社会の中にいても、社会を理解していなければ自由なのだ。

 けれど、それは社会にいるのと同じだろうか? 共存すべきが社会だ。理解していないのなら、社会は、ただ視界に映る風景であり、たまたま自分の存在する空間と、社会が存在する空間が重なっているだけでしかない。

 自由と孤独は表裏一体。どちらかだけを手にしようなんて、そもそも考えるべきではない。


 そして――彼が願うのは、当然、理解する方でなく、しない方だった。

なんだかんだで2章に突入。

ぶっちゃけ、週2話って私には結構速いペースなので、

書き溜めが底を尽きかけていて結構ヤバい。

第3章、間に合うのだろうか……?

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