98 狩猟開始
狩りに出るエルフ全員が集まり、門の前には大勢のエルフで埋まっている。そこの門の上に誰かが姿を見せる。あれは……村長か。
「おはようございます。今年も冬越しの狩猟の日がやって来ました。今年も節度を守り、森の恵みに感謝して狩猟をしましょう。以上、狩猟開始!!」
その短い挨拶の言葉と同時に門が開き始めると、エルフ全員が門の外に向かって歩き始める、通勤ラッシュのホームのように人の波が出来る。
俺とガウルンもその波に流されるように歩いて行こうとするが……。
「わっ!!おっと!!やっと!!」
俺は踏まれないようにエルフの足を避けて行く。踏まれる、踏まれるーーーー!!俺はとてもじゃ無いけどこのままだと踏まれること間違いなしなので、ガウルンの肩に飛び乗った。
「わ、悪いな」
「分かっている、大丈夫だ」
ガウルンはそう言うと俺の頭を乱暴に撫でた。
俺はガウルンの肩で体が安定すると口を開いた。
「そう言えば意外だな」
「何がだ?」
「村長の話が意外と短くてな、ああ言う人は話が長くなるものだと思っていた」
大抵学校の校長先生や教頭先生、まあ先生と呼ばれる人が話すと話が長くなってとても辛くなるものだ。それと同じように村長の話が長くなると思っていたんだが……
「ああ、今年はまだ短いな」
「今年は?」
「翌年ごとに話が段々と長くなっていくんだ、その長さが一定の長さになると誰かが村長に話が長すぎると抗議して今みたいに短くなる。それの繰り返しだ」
「なんだそれは……」
続々とエルフが森の中に入って行く。そして森の中で散開して行ってバラバラになって行く。俺たちもその波に流されて森の中に入っていくとカシムと二人きりになった。門の前の騒々しさが嘘のように静かになっていた。さすがに森の中であれだけ騒がしければ獲物に逃げられるからな、それは当たり前か。
「この森ではどんな物が取れるんだ?」
「そうだな………」
カシムは何かを見つけたのか静かにしゃがんで弓を番える。俺はそれを黙って静かに見つめていた、カシムの緊張がこちらまで伝わってくる。
パンッ
弦が戻るときに音ともに矢が獲物に向かって飛んで行く。実際はどれくらいだったか分からないが、一分?いや五秒くらいだったかもしれない、時が止まったかのように俺たち二人は動きを止めた。
バキバキッバキッ ドサッ!!
枝が折れる音と何かが地面に落ちた音がすると時が動き出したように同時に俺たちも動き出した。
「すごいな」
「どうと言う事は無い」
俺たちは早足で獲物を見に行った。
仕留めた獲物は木の根元に落ちていた。落ちていたのはカラス程度の大きさの鳥だった、色はインコみたいに緑色だ。胸に矢が刺さり、貫通していた。
「グリーンバローナだ。どの部位の肉も食べることが出来る鳥だな」
「へえ~」
ガウルンは背中の皮で出来たバックの中に矢が刺さったまま無造作にそれを突っ込んだ。
「おい、矢を抜かなくていいのか?」
「矢を抜いたら血が噴き出す、血の匂いで潜んでいる所に気づかれるから抜かない。それと大きい獲物を狩るときは最後な。持ち運ぶの大変だから」
「へえ~、勉強になるな」
まあ、アイテムボックスを持っている俺には関係無いけどね。
「あ、あれは?!」
俺が目にしたのは地面をついばんでいる鳥だ。色は白や茶色、黒色など色々いる。立派な鶏冠。その鳥は
まさに
「鶏……?」
「ああ、鶏だ」
冷静にガウルンが返事をしてくれる。
「それにしては……デカくないか?」
「ああ、デカいぞ」
その鶏は普通の鶏よりも大きくて、体の大きさはパッと見るだけで二メートルぐらいは高さがある。
「美味いのか?」
「美味いけどあれを狩るのはやめた方が良い」
ガウルンが深刻そうな顔で忠告してくる。
「え?どうして」
「一匹を襲ったらどこからともかく、あのサイズの大きさの鶏が出て来て、襲ってきた奴を袋叩きにする。それで無謀にもただの大きな鶏と侮って狩ろうとした若いエルフが死んだと言う事が多々ある」
エルフを倒す鶏って……精霊魔法もあるのに、森の中だから火の精霊魔法は使えなくてもそれ以外は使えるだろうに。
「精霊魔法は使わないのか?」
「気にせず襲い掛かって来て、数で押し負ける」
「そ、そうか……」
確か鶏って気性が荒いと言われてたな、そんな鶏が巨大かしたらそれくらい強くなりそうだな。
「と言うかどうしてこんな所に鶏が、元々いるのか?」
「戦争中に貴族が食べるために連れて来たのが逃げ出して野生化したんだ。そしてそれが巨大化したんだ、理由は分からないがな」
「へえ~」
よくありそうな話で納得が出来た。しかし……
「害はないのか?生態系を壊すとか……」
「それは特には無かったな?ほとんど生態系には変化が無かった」
「そうか……それじゃ、ここから離れるか。あいつらに見つかったら元も子もない」
「そうだな」
俺たちはそこから忍び足で離れた。




